逢香の華やぐ大和 山の辺の道(奈良県天理市)
人を結ぶ豊かな実り
里山の秋を堪能
日本最古の道の一つ「山の辺の道」を散策する逢香さん
書家の逢香さんが県内の土地土地を巡り、季節の魅力を発見する「逢香の華やぐ大和」。今回は天理市の「山の辺の道」で里山の秋を堪能。長岳寺では特別開帳中の「大地獄絵」を拝観しました。(川田悠紀雄)
旬を迎えた刀根早生柿
ヤマトタケルの父・景行天皇の御陵がある天理市渋谷町にやって来た逢香さん。山の辺の道は日本書紀にもその名があり、国内最古の道の一つとされる。秋を感じながら歩く逢香さんに、「お土産に持って帰り」と声がかかる。近所の柿農家の島岡修子さん(76)。天理発祥の刀根早生(とねわせ)柿は、今が収穫の最盛期だ。
この辺りで獲れる柿は特に糖度が高いそうで、島岡さんから袋いっぱいに分けてもらうと「甘くておいしそう」と思わず笑みがこぼれる。
島岡さんによれば、間もなく紅葉が始まり、柿畑の辺り一面が燃えるように赤く染まるという。
柿農家の島岡さんから、収穫したばかりの柿を頂く
ピーナツの収穫体験
歩みを進め、逢香さんは市民ボランティア「山の辺の道ファンクラブ」代表の竹田則康さん(76)の案内で綿花畑を見学した。
ハイキングで訪れる人たちに喜んでもらおうと、竹田さんは沿道の放棄畑を活用して四季折々の植物や農産物を栽培している。
江戸時代、奈良は大和木綿の産地として知られ、現在の天理市辺りにも、綿花畑が広がっていたという。
綿花は白い花が開花して40~50日ほどたつと、コットンボールと呼ばれるボール状の綿があふれ出す。その頃が収穫の目安とされ、木綿の原料になる。
今にもはじけ飛びそうなコットンボールに逢香さんは「ふわふわ。綿の中には種が詰まっている」と声を上げた。
続いてピーナツの収穫にも挑戦。畑一面に生い茂るピーナツの葉を地面を掘り起こすように両手ですくい上げると、たわわに実ったピーナツがぎっしり。逢香さんは「すごいボリューム」と初めての体験に目を丸くした。
ピーナツの収穫を体験。たわわなピーナツにびっくり
里山の味覚を堪能
竹田さんらボランティアのメンバーは週に2回集まり、沿道で収穫した農産物などを販売している。
この日もテーブルには柿やピーナツ、サツマイモ、手作りの手芸品が並び、立ち寄ったハイカーたちと即席のお茶会が始まった。
その輪に入れてもらった逢香さん。ハイビスカスローゼルのハーブティーをいただき、「華やぐわ~」と一言。豆の香りと甘味が絶妙な湯がきたてのピーナツも試食。「枝豆みたいで一度食べると止まらない」と里山の味覚を堪能した。
ハイビスカスローゼルのハーブティーにうっとりする逢香さん
収穫したばかりのゆでたてピーナツを試食
長岳寺の「大地獄絵」
午後からは平安時代に弘法大師が大和神社の神宮寺として開いた古刹(こさつ)、高野山真言宗の長岳寺を訪ねた。
長岳寺の北川住職と談笑
北川慈照住職が最初に紹介したのは本堂の天井の所々ついた赤黒いしみ。長岳寺の東側にそびえる龍王山にはかつて十市氏が築いた龍王山城があった。赤黒いしみはその城が松永久秀に攻められた時、負傷した武将が床に残した血の跡とされ、足形や手形が供養のため天井に張り付けられたという。
北川住職によると、武士の亡霊が夜中に現れて天井を逆さまに歩くといった怪談話も残されているのだとか。
妖怪書家の逢香さんも「愛嬌のある妖怪は好きだけど、これには武士の無念とか怨念が感じられて恐ろしい」と背筋がぞくり。
続いて本堂で11月末まで特別開帳されている狩野山楽筆の「大地獄絵」を拝観。約500年前に描かれた絵は掛け軸9幅に及ぶ大作で、縦3・5メートル、横11メートル。県の文化財に指定されている。
大地獄絵について質問する逢香さん
三途の川、地獄の猛火で焼かれる罪人、判決を下す閻魔大王。地獄道、修羅道などの六道世界や極楽浄土がすさまじい迫力で描かれている。
北川住職は「世界で今なお起こる戦争や殺りく、環境破壊。この絵は前世や来世だけでなく現世の人間の姿を表現している」と説明、逢香さんは「人間誰しもが持っている悪い部分、罪や業といったものが描かれている気がする」と話した。
掛け軸9幅におよぶ大作「大地獄絵」
逢香の目
逢香さんが今回選んだ言葉は「熱気」
今回の体験を基に逢香さんが選んだ言葉は「熱気」。「大地獄絵」の灼熱(しゃくねつ)地獄はもちろん、地域の人たちとの交流で感じた郷土に対する熱い思いを文字にした。
「山の辺の道のボランティアの皆さんとかけて長岳寺の大地獄絵と解きます。その心は『どちらも熱気がすごいでしょう』」。最後は謎かけでこの日の体験を締めくくった。
メモ
◆長岳寺
天理市柳本町。「大地獄絵図」の特別開帳は30日まで。期間中の土・日曜午後1時から北川住職による絵解き説法あり。拝観時間は午前9時から午後5時。拝観料は大人400円。問い合わせは電話0743(66)1051。
◆書家/逢香(おうか)
奈良市在住。奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修卒業。6歳から書道を学ぶ。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字を揮毫(きごう)。同年、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛ける。大学時代に個性豊かな妖怪に興味を持ち、「妖怪書家」としても活動。奈良市観光大使、(一社)モノモン代表。
「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で2024年11月12日に放送されます。