逢香の華やぐ大和 安楽寺観音堂と吉野スギの透かし彫り(奈良県下市町/黒滝村)
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「書」から「新作品」へ
イチョウ堪能、工芸品にも挑戦
安楽寺観音堂を拝観する逢香さん
書家の逢香さんが県内の社寺や名所を訪ねて地域の魅力を発信する「逢香の華やぐ大和」。今回は初冬の下市町と黒滝村で大きなイチョウの木を見たり、吉野スギの透かし彫りを体験。逢香さんは「生命力」を感じ、新年の作品作りへの意欲を高めました。(久後 力)
月ケ瀬(奈良市)、賀名生(五條市)と並ぶ県内三大梅林の一つ「広橋梅林」(下市町)。逢香さんはその広橋地区に立つ安楽寺(米沢信哉住職)の観音堂に向かった。お堂の前に「御葉付イチョウ」と呼ばれる大きなイチョウがあり、県の天然記念物に指定されている。
県の天然記念物に指定されている安楽寺観音堂境内の「御葉付きイチョウ」
御葉付イチョウは種子を葉の上につけるイチョウの変種。町のホームページには高さ25メートル、枝張り(左右に張っている枝の幅)が4・8メートルとある。「大きいです。見上げるのに距離がいりますね」と逢香さん。傍らの説明板には「イチョウは1億年も前の形質を保ち続けていることから生きた化石ともいわれており」とあり、声に出して読んだ逢香さんは、イチョウの周囲を黄色く染める落ち葉を眺めながら「どれだけの葉が落ちるのかな」とつぶやいた。
お葉付きイチョウを見上げる逢香さん
訪問した12月4日は黄色い葉の間にまだ緑色の葉が残った状態。同寺を管理する米沢郁美さん(80)によると、今年は秋が暖かかったせいか、例年より紅葉が遅かったという。
逢香さんは米沢さんの案内で観音堂内へ。中には阿弥陀如来立像や聖観音立像、四天王像2体(増長天と多聞天)の4体(町指定文化財)のほか、お地蔵さんなど約10体が安置されている。
仏像を拝観した逢香さんは「こんなに多くの仏さんがいるのにびっくりしました。迫力がありますね」と驚いた様子。米沢さんは「連絡いただければ誰でも拝観できます。昔は大峰山にお参りに行く人たちがここで宿泊していたようです」と教えてくれた。
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続いて逢香さんが向かったのは黒滝村。同村寺戸の村森林会館には村の森林組合があり、吉野スギを使った透かし彫りの作品が館内にずらり。「風神雷神」や吉野林業の様子などを描いたものが並んでいる。
黒滝村森林組合がある村森林会館
透かし彫りはスギの木目を生かした工芸品。サンドブラスターという機械を使い、木目の柔らかい部分を抜いて硬い部分を残すことで作品を生み出す。木目が細かくて均一である吉野スギの特徴を生かした工芸品だ。
逢香さんは森林組合の花井慶子さん(46)に「描きたいものを描いてください。線は1~2ミリまで細かく彫れますよ」とアドバイスを受け、透かし彫りに挑戦。デザインを考え、黒色のペンで白い用紙に下絵を描く。
花井さんのアドバイスを受けながら透かし彫り作品のデザインを考える
仕上がったデザイン用紙を拡大コピー。表面に布テープを貼ったスギ板(縦32センチ、横19センチ、厚さ3ミリ)の上にコピー用紙を貼り付け、デザインの黒色部分をカッターの刃先で布テープが取れる深さまでくり抜いていく。花井さんの協力も得ながら準備完了。
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最後はいよいよ、サンドブラスターを使った透かし彫り作業。逢香さんは花井さんの先導で同会館から車で約10分の所にある同組合の工房に移動。操作方法を聞いた後、ボックス状の機械の中に作品を入れ、手袋をはめた両手を差し込んでノズルをつかむと、カッターで抜いた部分にノズルから噴き出す風とガラスの粒子を吹き付ける。木目の柔らかい部分を抜く工程だ。
サンドブラスターを使った透かし彫り作業
「(木目の柔らかい部分が)抜けたら少しずつ動かしてください」と花井さんがアドバイス。逢香さんは機械から作品を取り出して抜け具合を確認しながら作業を進め、見事作品が完成した。
サンドブラスター(後方)から取り出した作品の出来を確認する逢香さん(右)と花井さん
細部をヤスリなどで仕上げた逢香さんは「いい作品ができました。木目が抜けそうで抜けないとか、年輪の角度に合わせて吹き付けるとか。コツが分かった気がします」と満足そうな笑顔を見せた。
逢香の目
ヘビをイメージして「輪廻」と書いた作品を手にする逢香さん
来年2025年は巳(み)年。脱皮するヘビは生まれ変わりの象徴で、逢香さんは「輪廻(輪廻転生)」の文字を選ぶと、ヘビをイメージして渦巻状にデザインした。「来年は生まれ変わる意識を持って、書だけでなく、透かし彫りの技術などを生かした新たな作品づくりにも挑戦したい」と意欲を見せた。
メモ
◆安楽寺観音堂の「御葉付イチョウ」
下市町広橋1731。駐車スペースあり。近鉄吉野線・下市口駅から奈良交通バスで約25分。バス停「庄屋辻」で下車、東に約500メートル。
◆書家/逢香(おうか)
奈良市在住。奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修卒業。6歳から書道を学ぶ。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字を揮毫(きごう)。同年、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛ける。大学時代に個性豊かな妖怪に興味を持ち、「妖怪書家」としても活動。奈良市観光大使、(一社)モノモン代表。
「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で2024年1210日に放送されます。