質問「お坊さんが注目する奈良のスポットを教えてください」 - 我知(がち)ーお坊さんに聞いてみる(2024年5月15日)
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【質問】
奈良にはお寺や神社がたくさんありますが、奈良をより楽しむために注目すべきスポットなどがあれば教えてください。
(40代女性)
【回答】
辻 明俊(興福寺 執事長)
【我知なヒント=見え隠れする歴史を楽しむ】
三条通りを挟み、境内南側にある階段は、江戸の頃より五十二段と呼ばれるようになったとか。年の瀬になると、興福寺近くに宿舎を構え、全国高校ラグビーに出場する選手たちが勢いよく階段を上り下りする姿は、近所に住む者にとって、おなじみ冬の風物です。ちなみに五十二という数字は、菩薩の五十二の修行段階に由来します(十信・十住・十行・十廻向・十地・等覚・妙覚の各階位の総称)。
ところで、階段を上がると、そのかたわらに幕末の頃、奈良奉行所の代官としてやってきた川路聖謨(としあきら)の業績をたたえた石碑(植桜楓ノ碑)があるのをご存じでしょうか。
江戸幕府の要職を歴任した川路にとって、当初、奈良は後ろ向きに感じられたと言われていますが、古都の景色や風情、人々の悠然たる暮らしぶりを目にして、次第に奈良の風土に惹(ひ)かれるようになっていきます。
そんな奈良の人たちに楽しみを残そうと、川路は奈良を去る前に、私財を投じ奉行所の外へ桜などを植える緑花事業にまい進しました(興福寺や東大寺をはじめ、周辺に数万本を植樹)。この心温まる行動は、激動の明治初頭を乗り越え、やがて修景や自然と一体となる名勝奈良公園開設への契機にもつながっていくのです。
階段の下に立って見上げれば、仏の住まう興福寺大伽藍(がらん)、そして、その先には広大な憩いの空間(奈良公園)があります。表向きは観光地としてのイメージが強いかもしれませんが、五十二段を行き来する時、奈良公園を歩く時、一帯の由来にほんの少し興味をもてば、その場所のもつ記憶と結び付き、見え隠れする歴史に歩みは緩やかになるはずです。奈良は知れば知るほど、何度でも訪ねたくなる場所だと思いますね。
◆お知らせ
【我知なヒント】を授けてくれる新メンバーに、6月から「生駒の聖天さん」で知られる宝山寺・東條哲圓執事長に加わっていただきます。引き続き、質問やお悩みお待ちしています。
東條哲圓執事長の略歴
東京都出身。学習院大学、立教大学在籍後、2002年、高野山金剛峯寺で出家得度。03年高野山宝寿院で伝法灌頂入壇。高野山大学大学院修士課程修了。修士(密教学)。17年から生駒山宝山寺執事長を務める。
【お坊さんへの質問を募集しています】
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【回答者】
興福寺 辻 明俊さん
金峯山寺 五條 永教さん
秋篠寺 堀内 瑞宏さん
宝山寺 東條哲圓さん
【掲載日】
毎月第1、3水曜日「暮らし」のページ・奈良新聞デジタル