質問「お金に執着する娘と折り合いが悪く悩んでいます」 - 我知(がち)ーお坊さんに聞いてみる(2025年3月19日)

【質問】
娘と折り合いが悪く悩んでいます。私は離婚して子どもを育ててきましたが、とても仕事が忙しく器用な方でもなかったので、家事はとてもおろそかになりネグレクトともいえるような状況でした。子どもには迷惑をかけてしまったと反省しています。しかしながら仕事は一生懸命にして、少しずつ貯金もできるほどに頑張りました。
娘はお金に執着するところがあり、大人になってからは結婚しても家や車の頭金を出してやり一緒に旅行に行った際も孫の分などいつも多めにお金を出さないと納得しません。時々私のことを嫌いと言い、お金の事でもめたりすると、「もう孫には会わせないから、家にも来るな」と言います。私の育て方が悪かったとはいえ、状況をどのように改善していけばよいですか。(60代女性)
【回答】堀内 瑞宏(秋篠寺住職)
【我知なヒント=善く知り、善く正す。改めるのではなく改まる】
「改善」。とりあえず一つの答えとして子どもとは距離を置き、孫のお年玉やお中元を贈る程度の関係を保つことを勧めます。ただその前に質問文の中で考えなければいけない部分を挙げたいと思います。それは「お金の話に納得できない娘が母親を嫌いと言う」です。
その昔、物々交換の時代の流通は物だけではなく、収穫までの苦労や感謝の思いなど見えないモノも含めて交換されていたと想像できます。しかし後の貨幣経済では金額という物差しに頼り、見えないモノは軽視されるようになりました。
そのため相手の背景を考慮しないお金のやり取りは些細なことでもトラブルが起きるようになります。ですが喜怒哀楽の思い出や同じ目標を持つといった多数の縁を共有する友人同士なら、トラブルは起きにくくなります。また親と子ならば話す機会の中で口論と納得を重ね、トラブルを乗り越えられるほどの多様な縁を育てることもできるでしょう。
俗世坊主の私見ですが、金銭トラブルというのは、人と人の縁の中でお金の縁のみが極端に大きくなった時に起こるものだと考えます。先の一文が悲劇的だと思えるのは、今日までの流れがあったにせよ、お金の話一つで堂々と親を嫌うことを宣言できるほど、お金に偏った縁しか育たなかったことが見受けられるからです。現状を確認します。「育て方が悪かった」のは子どもではなく子どもとの縁なのです。
以上を踏まえて質問者さまにできることは何でしょう。時は戻らず、子どもは家庭を持ち、子どもも縁も育て直すことはできません。しかし、自分自身なら育て直すことができるのではないでしょうか。これからも仕事や趣味や日常で多数の縁と出会うでしょう。その中で見えないモノにも注視する経験を重ね、自分が変わることができたなら、今とは違う新しい形の親子の縁が生まれるかもしれません。気持ちを「改」め歩む質問者さまが、未来で「善」い縁を紡ぐことを祈念させていただきます。
【我知(がち)ーお坊さんに聞いてみる】
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【回答者】
興福寺 辻 明俊さん
金峯山寺 五條 永教さん
秋篠寺 堀内 瑞宏さん
宝山寺 東條哲圓さん
【掲載日】
毎月第1、3水曜日「暮らし」のページ・奈良新聞デジタル