かるたで伝える地域の伝承 奈良県・吉野町 - 地元の歴史・文化を知ろう【ふりがな付きニュース】
奈良県吉野町の大字の一つ、「六田」に住む女性2人が地域の風習や歴史、人々の営みをテーマにご当地かるたを作りました。読み札は美しい木目の吉野スギ(縦約11センチ、横約9センチ、厚み約8ミリ)。住民の集まりなどでゲームとして楽しまれ、地域づくりに一役買っています。
六田は吉野川左岸の集落で、かつては吉野川三渡し場の一つ「柳の渡し」があり、大峰山で修行する修験者や行商人らも行き交いにぎわいました。吉野山に至る街道に沿って商店や宿が軒を連ね、谷筋には田畑が広がっていました。
かるた制作者で元小学校教諭の岸本直子さん(74)は川上村出身で結婚して六田に住むようになりました。家族との会話だけでなく寄り合いや社寺の世話、葬式の手伝いなどに参加する中で地域にまつわる知識が蓄積され、土地への愛着が増したといいます。地名の由来などは特に面白く感じ、高齢者に尋ねてノートに記録していました。
岸本さんが結婚したころ約300戸だったという六田の世帯数は、人口減少や少子高齢化の進行で80戸まで減少。新型コロナウイルスの流行で、寺の行事なども簡素化されてしまう中で、「忘れられていく伝承を残したい」との思いが強くなり、古くからの友人で、文芸に詳しい北川幸子さん(87)の協力を得て約1年がかりで、あいうえおかるたを編さんしました。
渡し舟のわくわく感や夏祭り(7月10日)に各家庭で柿の葉ずしを作る風習など先祖の息づかいをとどめたかるたは、町内で製材所を営む岸本さんの教え子が木製かるたに仕立ててくれました。
「釘を抜いたといわれる釘抜き橋 柩の中から声がして 釘を抜いたとのいわれがあるよ」「菅原池の奥、するび谷にはマッチを作る工場があったとさ」など、かるたに取り上げた内容は、住んでいる人でも、もう知らないことがたくさんあるそうです。
岸本さんは今、生まれ育った川上村白屋地区のご当地かるたを手がけています。「故郷のかるた作りの方が簡単かもしれません。県内でも各地の皆さんがご当地かるたを作ってくれたら楽しいですね」と話してくれました。
地域への敬意がこもったご当地かるたを手にする岸本さん(左)と北川さん=4月25日、吉野町六田