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<企画>座談会 テーマ「アルコール依存症を語る」 - 出席 佐藤・橿原商工会議所会頭、赤羽・宇陀市立病院院長、山田・県中和保健所所長ら

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 アルコール依存症は、大量のお酒を長期にわたって飲み続けることで、お酒がないといられなくなる症状になる。その影響は精神・身体の両面にわたってあらわれ、仕事や家庭生活などの生活面にも支障が出てくることがある。アルコール依存症ではアルコールが体から抜けると、イライラや過敏神経、不眠、頭痛、吐き気、手の震えなどの離脱症状が出てきて、それを抑えるためにまたお酒を飲むということが繰り返される。本人が病気であることを認めたがらない傾向があり、適切な相談や治療につながりにくい。回復には本人が治療に対して積極的に取り組むことはもちろん、家族はじめ周囲の人のサポートが大切だ。これに鑑み2013年に「アルコール健康障害対策基本法」が成立し、行政もアルコール健康障害対策を総合的かつ計画的に実施しつつある。アルコール依存症の現状と課題、対策について佐藤進・橿原商工会議所会頭、赤羽たけみ・宇陀市立病院院長、山田全啓・奈良県中和保健所所長に語り合っていただいた。 (司会は田中篤則・奈良新聞社社長)

 

佐藤氏、赤羽氏、山田氏(左から)

 

アルコール健康障害対策 患者支援、相談・医療体制を整備

生活面に支障も 事前予防が必要

 ―まずアルコール依存症の現状と課題を所長から。

 

 山田 まず歴史的な背景として、奈良県は酒の発祥の地といわれています。濁酒は桜井市の大神神社が発祥の地と言われ、ご神体は古来、みむろ山と言われ、酒の神様です。一方、清酒は奈良市の正暦寺が発祥の地と言われ、正暦寺は日本で唯一の酒母製造免許を取得している寺として有名です。つまり奈良と酒はいにしえからつながりがあり、また、人々に癒やしとくつろぎを与える嗜好品として親しまれています。

 

 一方、多量飲酒は、心身の健康を損なう恐れがあります。また、本人の健康問題だけではなく、その家族への深刻な影響や飲酒運転、暴力、虐待、自殺等の重大な社会問題を生じさせる危険性が高いことが知られています。

 

 アルコール健康障害とは、アルコール依存症、その他の大量の飲酒、未成年者の飲酒、妊婦の飲酒等の不適切な飲酒の影響による心身の健康障害のことで、なかでもアルコール依存症は、大量のお酒を長期にわたって飲み続けることが主な原因で発症する精神疾患の一つで、お酒をやめたくてもやめることができない、飲む量をコントロールできない等の症状により、仕事や家庭など生活面にも支障が出てくることがある疾患です。このような事態に至る前に予防することが必要です。

 

 国は2024年、健康に配慮した飲酒に関するガイドラインを策定しました。生活習慣病リスクを高める飲酒は1日当たりの純アルコール摂取量が男性40グラム以上、すなわち日本酒2合、缶ビール500ミリリットル2本、女性20グラム以上と定めました。一応の目安としていただければと思います。

 

 ところで、22年国税庁都道府県別種類販売調査では、奈良県は滋賀県に次いで2位と、飲酒量の少ない県です。また、22年奈良県健康長寿基礎調査では、生活習慣病のリスクがある飲酒は、男性11・5%、女性5・5%で、減少傾向にあることから、奈良県では問題ないように見えます。

 

奈良県中和保健所所長・山田全啓氏

 

 ―奈良県では少ないのですか。それはいい傾向ですね。

 

 山田 しかし、同時にその調査では、生活習慣病リスクの高い飲酒は、40歳代から60歳代の働き盛りに集中していました。また、1日平均アルコール換算で60グラムを超える飲酒、すなわち日本酒3合、缶ビール500ミリリットル3本を超える多飲酒者も、男女とも20歳から50歳の働き盛りの年齢層に多いのが特徴です。

 

 ―日本酒は2合までですか。若いころは毎日のように大量に飲酒していました。

 

 

健診で過小申告 早期発見に支障

 ―医療機関、健診機関のアルコール問題について、院長から。

 

 赤羽 摂取したアルコールは体内で酵素によってアセトアルデヒドから酢酸に分解され、最終的に体外に排出されます。このアセトアルデヒドが有害物質です。

 

 奈良県の飲酒量が少ないという報告がありましたが、奈良県はアセトアルデヒドの分解酵素が働かないためにお酒が飲めない人、あるいは分解酵素の働きが弱いためにお酒の弱い人が多いからなんです。この分解酵素の働きが弱い人は、お酒を飲むと顔が赤くなるという特徴があります。お酒が弱い人でもお酒を飲み続けているとたくさんのお酒も飲めるようになりますが、アセトアルデヒドが翌日まで残るので、二日酔いになりやすく、肝障害など健康障害を起こす危険性が高いです。お酒の弱い人が多いとアルコール依存症の発症率は低くなりますが、少ない量の飲酒でも健康障害が起こりやすいので、統計だけをみて安心してはいけません。

 

 健診の問題点について言えば、問診で飲酒量を控えめに申告する方がおられるので、正確な飲酒量が把握しにくいことがあります。また、血液検査でのγ―GTPの数値は、1週間ほど飲酒を控えると下がります。このように飲酒量を過小申告したり健診に向けて事前に飲酒量を減らしたりすると「異常なし」ということになり、肝障害など飲酒による健康障害を発見しにくくなってしまいます。したがって健診では、普段の状態で受診していただきたいのです。

 

宇陀市立病院院長・赤羽たけみ氏

 

 ―たしかに、健診で飲酒量を正直に申告するのは気が引けます。

 

 赤羽 わが国の肝硬変の原因は、2017年まではC型肝炎がトップでしたが、18年以降はアルコールがトップとなりました。肝臓には蛋白(たんぱく)の合成や栄養の貯蔵、有害物質の解毒・分解、胆汁の合成・分泌などの重要な役割がありますが、肝臓は重症にならないと自覚症状が出ない「沈黙の臓器」であることから、健診で異常を検知しなければ早期のうちに病気を発見できなくなるという問題があります。

 

 

県対策推進会議 各機関と連携を

 ―アルコール依存症について、県はどのような取り組みをしていますか。

 

 山田 奈良県では24年、奈良県アルコール健康障害対策推進計画第2期を策定しました。計画の基本理念として、県民が飲酒を楽しむだけでなく、個人に応じた飲酒を理解し行動することで健康長寿を目指します。問題飲酒者への支援の充実と、アルコール依存症者とその家族が身近なところで相談でき、適切な医療につながるよう相談・医療体制の整備、患者の回復支援や自助グループ活動支援に重点的に取り組みます。そして奈良県アルコール健康障害対策推進会議を設置し、各機関と連携して施策を進めることにしています。

 

 

脂肪肝、がんなど 健康への障害大

 ―行政ではアルコール健康障害に対してさまざまな取り組みを行い、健康長寿を目指しています。不適切な飲酒に伴い、私たちの体にはどのような影響が出てきますか。

 

 赤羽 アルコールによる健康障害といえば、脂肪肝が多いですが、進行すると肝硬変や肝臓がんになる場合があります。また、一度にたくさんの飲酒をするとアルコール性肝炎を起こす場合があり、重症では生命にかかわる危険性があります。がんも肝臓がん以外に、咽頭がんや食道がん、膵臓がん、大腸がんなどになる危険性もあります。ちなみに発がん率は40グラム以上で2倍、60グラム以上では5倍になります。

 

 またがん以外にも、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病のリスクがあります。精神面との関係では、うつ症状があると不安感や孤独感から飲酒によってそれらをまぎらわそうとするケースが多いです。女性はとくにアルコールの分解能力が低いので要注意です。また妊娠中の飲酒は、胎児に影響を及ぼし、発達障害等を発症するリスクが高まります。

 

 

中和保健所、橿原商工会議所との連携も

早期介入地域 支援事業を実施

 ―中和保健所では橿原商工会議所と連携してアルコール健康障害早期介入地域支援事業を行っているとうかがっています。 

 

 山田 中和保健所では、2024年度から、橿原商工会議所の佐藤会頭のご協力をいただき、アルコール障害早期介入地域支援事業を実施しています。アルコール依存症の予防・早期発見・早期介入を行うため、特定健診等でスクリーニング検査(AUDIT)を実施し、ブリーフインターベンション(BI)といった簡単な助言を行うことで、生活習慣病リスクの高い飲酒を減らし、依存症の方には、専門医療機関、自助グループにつなぐなど、問題飲酒者への早期介入や、依存症の予防から治療へ、切れ目のない支援を行います。

 

 AUDITとは、アルコールスクリーニングの一つで、WHОが問題飲酒を早期に発見する目的で作成したもので、世界で最もよく使われています。10項目の簡易な質問で重症度を測定するものです。0点から7点は問題なし、8点から14点は多量飲酒者、15点以上は依存症の疑いがあります。先行調査では、14・1%に何らかの問題飲酒、6・5%に依存症の疑いがあり、今後積極的な介入が必要です。

 

 ―このたび橿原商工会議所と連携して取り組まれるということですが、具体的な内容は。 

 

 佐藤 橿原商工会議所は橿原市・アクサ生命と2023年10月5日「健康経営の普及促進及び健康増員に関する協定」を締結し、会員の事業所に健康経営の取り組みを働きかけているところです。佐藤薬品工業(株)の場合、従業員710人で、車通勤の社員が多く、とりわけ若い社員は懇親会などの飲酒を伴う会合を好まない傾向があり飲酒する社員は減少傾向にあります。商工会議所主催の定期健康診断を10月23・24の両日に予定していますが、AUDITを実施してもらいます。働き盛り世代は飲む人はよく飲むので、これを機会に飲み方の見直しをしてもらえば、生活習慣病の予防につながります。従業員が病気になれば生産性も下がり、社会的損失です。この分野での行政との取り組みに民間団体が連携して一緒に実施することはあまり例がなく、官民一体となった取り組みこそが実効性のあることだと思います。商工会議所としては、今後も健康経営を推進するとともに産官学の連携で取り組んでいきたいと思います。わが社でもAUDITを取り入れることを検討したいと思います。

 

橿原商工会議所会頭・佐藤進氏

 

 

簡単な検査で 予防治療は大切

 ―やはり早期介入は大切ですね。

 

 赤羽 近年の傾向としてコロナ禍から家で過ごすことが多くなり、かえって飲酒量が増えたといわれています。女性では、キッチンドリンカーや仕事で飲酒の機会が増えるなどの問題が出てきています。AUDITは簡単な検査で飲酒傾向を自分でチェックできますので、ぜひ活用してください。早期介入でアルコール健康障害を予防・治療していくことは大切ですし、早急に取り組むべき課題であると思います。

 

 ―1週間のうちに飲酒しない日、いわゆる「休肝日」を設けるといいと言われていますね。

 

 赤羽 毎日飲み続けた場合、アルコール依存症の発症につながる危険性があります、定期的な休肝日を設けるなどで飲酒量を減らす工夫が必要ですね。

 

 

飲酒と健康についてのアンケートAUDIT

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