質問「婚約者から『死にたい』と言われ、苦しいです」 - 我知(がち)ーお坊さんに聞いてみる(2025年1月15日)
【質問】
5年ほど交際している彼が「死にたい」とたびたび口にするようになりました。もともと心配性で神経質な人なので、心療内科に通っています。「死なないでほしい、一緒に生きていきたい」と訴え、励ましたり話を聞いたりすると翌日には落ち着くのですが、また不安定になると「死にたい。楽になりたい」と繰り返します。住まいが離れているので彼が不安定な時にそばにいられずもどかしいのですが、お互いの仕事の事情であと数年は引っ越しができません。異動のタイミングで結婚する約束をしています。 彼に死んでほしくありません。ただ病気だとわかっていても、私との未来より死を選びたがっているという事実に本当はとても傷付いている自分もいて「死にたい」と言われるたびに苦しくなってしまい何と言ったらいいのかわからなくなっています。彼は仕事や人間関係に疲れて死んだら楽になれる、と死に対するあこがれのようなものを持ってしまったように思います。彼にかける言葉のヒントをいただけると幸いです。 (30代女性)
【回答】堀内 瑞宏(秋篠寺住職)
【我知なヒント=未来を語る言葉は、未来の自分を引き寄せる力を持っている】
医師の許しが出ればという話ですが、結婚式風の写真を撮りに行きましょう。撮影所でウェディング衣装一式を借り、結婚式に寄せて素敵な写真にしてください。
さて質問についてです。人というものは精神的に弱まるといわゆる死を求める病にかかりやすくなります。見えない未来を恐れて心理的に動けなくなることは珍しい話ではありません。質問者様が理解しておられるようにこれはあくまで病であり、お相手があなたとの人生を天秤にかけているわけではないのです。風邪を引いたときに出る熱のようなものであり、治療可能なものだという意識が大切です。
ただ、素人なりに気になるのはネガティブな思考が声に出ているということかと考えます。仏教においてお釈迦様の言葉が書かれている経文を声に出す読経は、お釈迦様の言葉を間接的に自身に聞かせ、その教えに近づくという側面があります。それに習い、未来に向けた前向きな言葉を自身に発する習慣を持つことが大事なのではないでしょうか。
そこで、着飾った姿の結婚式風の写真です。それは今見ることが出来る未来の形の一つです。お相手の方には写真の中の自分たちに声をかけ、「行ってきます」「ただいま」から始めて目先を未来に向ける機会を増やしてもらうのはどうでしょうか。そして質問者様の立場からは、数年後写真のように再び横に並び、綺麗だと褒められるのを夢見て生きる「そんな私のために生きほしい」というポジティブなわがままを語ることは許されるのではないでしょうか。
改めて医師が許すなら、今回の投稿と返答を相手の方に見せてください。もしもこの文が笑いの種程度のものにしかならなくとも、なにか好転するきっかけになれるなら俗世坊主からお相手の方に言いたいことが二つあります。
「この記事を読む人たちはきっと、二人の未来に幸あれと祈るでしょう」そして「この場に投稿する程までにあなたを想う人がいることを忘れないでください」
【我知(がち)ーお坊さんに聞いてみる】
奈良の僧侶が悩み相談や質問に答えるコーナー。お坊さんに相談したい、 仕事や人間関係、恋の悩み、人生相談や信仰・仏教の教え、お寺への質問などが対象です。お坊さんへの質問を募集しています。採用は弊社と回答者で判断し、掲載の有無や掲載日についてお答えすることはできませんのでご了承ください。
【回答者】
興福寺 辻 明俊さん
金峯山寺 五條 永教さん
秋篠寺 堀内 瑞宏さん
宝山寺 東條哲圓さん
【掲載日】
毎月第1、3水曜日「暮らし」のページ・奈良新聞デジタル