質問「慈悲深く生きるにはどうすればよいですか?」 - 我知(がち)ーお坊さんに聞いてみる(2024年9月4日)
【質問】
慈悲深く生きるには、どのようなことに気をつければよいでしょうか。(40代男性)
【回答】
堀内 瑞宏(秋篠寺住職)
【我知なヒント=他者と自分を大事にすることをシンプルに考える】
手塚治虫の漫画「ブッダ」を初めて読んだ中学生の頃の私は単純に面白いと思うだけでした。しかし高校生になり実際の原始仏典と漫画の内容との差異を理解できるようになると、漫画の構成力に感嘆したものです。特に記憶に残った物語の一つに樹下観耕(じゅかかんこう)という話があります。これは耕されて出て来た虫が小鳥に捕まり、その小鳥をさらに大型の鳥が捕まえるという命の連鎖を見て、若き日のお釈迦様が生命のはかなさを感じるという仏話です。
これが漫画ではどのように変わるかというと、まず行事の最中にお釈迦様が一時的に気を失い、その後自分は気を失っている間に小鳥の一生を体験していたと語り始めます。鳥として生まれ、結婚、別れを経験し、ある日虫を捕まえるために畑に降りたとき大型の鳥に捕まり、生の終わりを受け入れ死に至ったと。その場で話を聞いた親族が、先ほど大きな鳥が小鳥を捕まえるのを畑で見たと言うと、それが僕だったのでしょうとお釈迦様が答える。なんとも不思議な物語として描かれているのです。
仏教観として知られる輪廻(りんね)転生をさらに展開し、意識を他の動物に飛ばし、時間をさかのぼって体験するなど、漫画ならではの展開が魅力的で何度も読み返したものでした。
そんな漫画の表現に感化され、拗(こじ)らせた中学生のような俗世坊主は私見として当時思ったのです。例えば草むしりで私が引き抜いた草は、前世来世の自分なのではないかと。引き抜くときに引き抜かれる自分を納得させられるかと。自分が雑草として認識され引き抜かれるとき、その死を受け入れられるだろうかと。時を経て社会に接し、自分だけではなく相手の立場になって考える必要に迫られる折に触れて、この黒歴史を思い出してしまいます。
ですからそんな私が考える「慈悲深く生きるにはどうすればよいか」の答えは至極単純で、「自分という名の他者と、他者という名の自分を大事にする」。ただそれだけのことなのではないかと思うのです。
【我知(がち)ーお坊さんに聞いてみる】
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【回答者】
興福寺 辻 明俊さん
金峯山寺 五條 永教さん
秋篠寺 堀内 瑞宏さん
宝山寺 東條哲圓さん
【掲載日】
毎月第1、3水曜日「暮らし」のページ・奈良新聞デジタル