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質問「長年連れ添った妻が急逝しました。心の中にぽっかり穴が空いています」 - 「我知(がち)―お坊さんに聞いてみる」(2024年7月17日)

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【質問】

 48年連れ添った妻が今年1月急逝しました。心の中にぽっかり穴が空いた心境です。どうすれば、これからの人生、前向きに生きることができるでしょうか。(70代男性)

 

【回答】

辻 明俊(興福寺 執事長)

 

【我知なヒント=死を受け止め 生きる力に

 

 「昨日、今日とは思わなかった 友人 父母 最愛の人との別れ」この世は会者定離(えしゃじょうり)、出会った者とは必ず別れる時がきます。しかし、私たちはいつか「この世を去る」と知っていながら、どこか他人事のように感じていませんか。だから突然の別れに気持ちは深く沈み、なかなか現実を受け入れることができません。

 

 それでは、悲しみや辛(つら)いことは忘れるから前に進めるのでしょうか。48年という歳月を忘却するなど、とても無理な話です。中国の古典、「呻吟語(しんぎんご)」を著した明代末期の思想家である呂坤(りょこん)は「遺物眼に在るは、其の見るに忍びずして之を毀(こぼ)たんよりは、忘るるに忍びずして之を存するに若(し)かず」ー見るに忍びないから捨てるのではなく、忘れるに忍びないことこそ大切にする必要があるーこのように説いています。

 

 例えば、いつまでも覚えている場所へ出かけてみるのはどうでしょうか。カタチあるものはやがて消えて無くなりますが、想い出は残ります。ともに歩いた時間をゆっくり巻き戻し、一つ一つ記憶を整理しながら、あの日を振り返る。何か大事なことに気づくかもしれません。一方で奥さまの死を受け止め、自分の歩く道に明かりをともすことが肝要です。

 

 ただし、どうしてもふさいでしまうような時は、お寺へ行くことを勧めます。なぜならそこには黙って話を聞いてくださる仏さまがいらっしゃる。きっと陰から支えてくれるはずです。もしかすると同じ思いを抱えている人と出会えるかもしれません。引き合う行動は前を向く原動力にもなります。

 

 会者定離に対して倶依一処(くえいっしょ)という用語があります。ともに一つの場所で出会う。つまり、いつか浄土にて会える日がくるのです。その時にたくさんの言葉を贈れるよう、まだまだやるべきことはありますね。

 

 「お~い そのうち行くから楽しみに待っててや~」

 

【我知(がち)ーお坊さんに聞いてみる】

奈良の僧侶が悩み相談や質問に答えるコーナー。お坊さんに相談したい、 仕事や人間関係、恋の悩み、人生相談や信仰・仏教の教え、お寺への質問などが対象です。お坊さんへの質問を募集しています。採用は弊社と回答者で判断し、掲載の有無や掲載日についてお答えすることはできませんのでご了承ください。

 

【回答者】

興福寺 辻 明俊さん

金峯山寺 五條 永教さん

秋篠寺 堀内 瑞宏さん

宝山寺 東條哲圓さん

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