逢香の華やぐ大和 生蓮寺(奈良県五條市)
生蓮寺(奈良県五條市)を訪ねて
「極楽浄土」象徴の花
「五感」で楽しむハス
書家の逢香さんが県内の神社仏閣などを巡り、季節の花や土地の魅力を発見する「逢香の華やぐ大和」。今回は五條市の生蓮寺です。
10月まで花を楽しめる生蓮寺の生蓮寺華蓮=いずれも2日、五條市二見7
朝の生蓮寺
朝の陽光を受け、大小の花を咲かせる白やピンクのハス、ハス、ハス…。五條市の生蓮寺では2005年から寺名にちなんでハスを育て始め、現在は120品種250鉢ものハスが境内を埋め尽くす。
花を間近で観察すると、花びらの中央に円形の台座のような「花托(かたく)」が見える。「ハスは仏教の世界では極楽浄土を象徴するお花として有名ですよね! めちゃくちゃきれいです…。華やぎますね~」。逢香さんは神秘的な美しさに引き込まれた。
花の中央に花托が見える
住職はハス博士
寺の東には「蓮池」がある。「この生蓮寺華蓮(ショウレンジカレン)は私が品種改良しました。6月~10月まで花が咲くんです」。教えてくれた高畑公紀住職(45)は、京都大学の大学院で植物の遺伝子研究をしていた生命科学博士。
高畑住職は、境内で育てるハスを品種ごとに管理し、花の数、肥料の濃度やタイミングなどを記録して研究。受粉による交配で品種改良している。多くの人が気軽にハスを楽しめるようにと、サイズが小さく長期間花が咲く品種を目指しているという。
また、YouTubeでハスの育て方を配信。語尾にハスを付け、「こんにちは~す」と満面の笑みであいさつし、ハスの普及に尽力する。
「こんにちは~す」とあいさつする高畑住職
ハスの種子を味わう
「ハスの種子は食べられるんです。食べてみますか?」と高畑住職。ハスの花が咲き終わると花托は肥大化し、雌しべがあった場所に種子がなる。種子を1粒取り出して緑色の皮をむくと、白い実が現れた。
恐る恐る口にすると…。「ほのかに甘くておいしい! 癖になりそう」と逢香さん。日本ではハスの根のレンコンをよく食べるが、中国では種子もよく食べられる。種子は漢方薬として不妊症や精神安定の効能があると知り、「(ハスは)どこまでも人に寄り添ってますね」と感激した。
花托が肥大化し、種子ができる
種子
皮をむいた種子
趣あふれる象鼻杯
逢香さんはハスの葉を器にした「象鼻杯(ぞうびはい)」にも挑戦。茎が曲がる様を象の鼻に例えた呼び名で、古くから伝わる。
葉と茎の連結部に穴を空けると、葉に注いだ液体が茎の空洞を通り、ストローのように飲むことができる。ゆっくり葉を回し、葉が液体をはじいて玉露が転がる様を見て楽しむという。
本来はお酒だが、今回はハスの葉茶をいただいた。「おいしい! 空気の泡が一緒に入ってきました」と逢香さん。ここでしか味わえない一杯だ。
なお、寺で象鼻杯の提供はない。住職は「自分でハスを育てて試してほしい」と話す。
象鼻杯でお茶を飲む逢香さん
安産祈願、晴れ祈願
生蓮寺は800年代前半(平安初期)、嵯峨天皇が皇后の安産を祈って創建。後に空海が晴れ祈願のため立ち寄った際、小さな地蔵菩薩(現在は本尊の胎内仏)を納めた。空海の故事にちなみ、同寺の山号は「足寄山(よらせざん)」となった。
逢香さんは高さ3㍍の本尊「子安雨晴地蔵菩薩」(鎌倉時代)を見上げ、静かに手を合わせた。
本尊の子安雨晴地蔵菩薩
てるてる坊主で心の晴れ祈願
生蓮寺は晴れ乞いの寺。本堂には1600体以上のてるてる坊主がつるされている。天気だけでなく心の晴れ祈願も多く、全国から寄せられたてるてる坊主には「世界平和」「コロナ収束」などとつづられている。
逢香さんがてるてる坊主に願って書いた言葉は「墨ざんまい!」。墨を使った作品作りへの意気を込め、本堂につるした。てるてる坊主は月日まで飾った後、焚き上げて供養される。
1600体以上あるてるてる坊主
※取材は8月2日。天候、気候などで景観が変化することがある。
逢香の目
生蓮寺でハスの魅力を堪能し、てるてる坊主に晴れ祈願をした逢香さん。
水墨画で凛と咲くハスの花を描き、「心晴々今日蓮(こころはればれ、こんにちはす)」と揮ごうした。
逢香さんは「今日はきれいなハスを見て圧巻でした。てるてる坊主は天気だけでなく、心を晴れ晴れさせてくれるところがとても印象的でした」。住職の晴れやかなあいさつも強く心に残った。
人気の撮影スポット
◆五條市上野町ひまわり園
満開のヒマワリ畑とJR和歌山線(五條市提供)
県内有数のヒマワリの名所、「五條市上野(こうずけ)町ひまわり園」。8300平方㍍のヒマワリ畑の横をJR和歌山線の電車が走り抜け、電車の撮影スポットとしても人気だ。
五條市は、遊休農地の活用と資源循環型社会のモデルとして、年以上前からヒマワリを植栽する。肥料は刈り草を再利用したたい肥を使い、栽培や管理を障害者の就労継続支援事業所に委託。障害者の社会参加や景観づくりにつなげている。
今年の開花は8月下旬の予定。
メモ
◆書家/逢香(おうか)
奈良市在住。奈良市観光大使。奈良教育大学伝統文化教育専攻書道教育専修卒業。2020年、橿原神宮御鎮座130年記念大祭の題字を揮毫(きごう)。同年、元興寺(奈良市、世界遺産)の絵馬の書・画・印デザインを手掛ける。大学で変体仮名の授業をきっかけに個性豊かな妖怪たちに興味を持ち「妖怪書家」としても活動。現在、奈良市美術館で作品展「妖怪POP」を開催。8月21日まで。
◆生蓮寺
五條市二見7の4の7。JR大和二見駅から徒歩7分。拝観は午前9時~午後5時。入場無料。本堂の拝観料500円。駐車場あり。ハスの植え方講習が毎年4月にあり、持ち帰り用のハスの鉢植え付きで7000円。電話0747(22)2218。
◆五條市上野町ひまわり畑
五條市上野町246。JR大和二見駅から徒歩23分。上野公園の駐車場を利用できる。駐車場は午前8時30分から午後5時まで。問い合わせはエコリレーセンターごじょう、電話0747(24)4111。
「ならナビ」でも放送
「逢香の華やぐ大和」は奈良新聞社とNHK奈良放送局のコラボ企画で毎月1回掲載。NHK「ならナビ」(午後6時30分~)内で8日に放送されます。