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飛鳥・藤原の宮都 これからが正念場 - 論説委員 増山 和樹

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 飛鳥京と藤原京、6世紀末から8世紀初めにかけて宮が営まれた地域が、改めて注目を集めている。昨年9月、国の文化審議会はこの地域の文化遺産群を「飛鳥・藤原の宮都」として世界文化遺産の国内推薦候補に選定した。今月中にも正式な推薦書を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出する方針だ。

 

 順調に運べば2026年夏のユネスコ世界遺産委員会で登録が審査されるが、正念場はむしろこれからだろう。推薦=登録ではないからだ。推薦内容はユネスコの諮問機関である「イコモス」(国際記念物遺跡会議)が現地に入って調査し、その結果を世界遺産委員会に勧告する。勧告は登録にふさわしいとする「記載(登録)」から「情報照会」「記載延期(登録延期)」「不記載(不登録)」まで4段階あり、世界遺産委員会の審議に与える影響は極めて大きい。

 

 岩手県の「平泉」は08年のイコモスの勧告で登録延期とされ、構成資産を見直すなどして再挑戦、3年後の世界遺産委員会で登録が決まった。神奈川県の「武家の古都・鎌倉」はイコモスが13年に不登録を勧告、政府は推薦を取り下げた。島根県の「石見(いわみ)銀山遺跡」も登録延期を勧告されたが、世界遺産委員会で逆転登録となった。

 

 「飛鳥・藤原の宮都」は計22の資産群で構成される。当初、構成資産は28あったが、奈良県や関係市村が検討を重ねて再整理、省いた資産がある一方、1件でカウントしていた大和三山を山ごとに1件として意義付けするなどした。多彩な資産の価値を「宮殿と官衙(が)」「仏教寺院」「墳墓(古墳)」に区分するなど、よく練りこまれた印象だ。

 

 22の構成資産の中には、石舞台古墳のように巨大な石室を目の当たりにできる遺跡もあれば、遺構が地中に眠る遺跡も少なくない。イコモスの現地審査でどのように価値をアピールするかは重要なポイントだ。同じく地下遺構が中心の「北海道・北東北の縄文遺跡群」の登録(2021年)は、明るい材料といえる。

 

 暫定リストへの記載から18年。最後に課題となるのは地元の意識だろう。イコモスの審査では、文化遺産の保護に欠かせない住民の意識も審査の対象となる。観光面の期待は膨らむが、世界遺産登録の意義は人類のかけがえのない遺産として次世代に引き継ぐことにある。一つ一つの資産の価値を地域でまず共有し、世界へと広げる取り組みが求められる。

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