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大和美酒之記3/今も醸造する最古の酒殿【春日大社】 - 春日祭に供える濁酒「白酒」

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日本最古で現在も春日祭に供える酒を醸造している酒殿=奈良市春日野町の春日大社

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 奈良の酒は室町時代ごろから興福寺や東大寺など大寺院で造られ「僧坊酒(そうぼうしゅ)」と呼ばれた。大阪の「天野酒」などと並び名酒とされ、特に奈良市の正暦寺(菩提山寺)の酒は良酒の名声を博した。

 

 正暦寺ではそれまでの濁酒とは異なる透明な酒を造る技術も誕生した。その後の諸白(もろはく)、現在の清酒へとつながるもので、同寺は「日本清酒発祥の地」として知られる。

 

 安土桃山時代には酒造りの拠点が奈良市の奈良町へ移行。「南都諸白」は「和州南都造酒第一となす」(『本朝食鑑』)とあるように諸国第一と評され、徳川家康にもささげられた。

 

 「伊達政宗が奈良の酒を好んだことも面白い」と語るのは奈良市史料保存館の桑原文子さん。初代仙台藩主の政宗は諸白を醸造するため、奈良の榧森(かやのもり)又右衛門を御酒御用として召し抱え、仙台城内に屋敷地を与えて酒を造らせたという。

 

 1680年代後半ごろの奈良町には「菊屋」「讃岐屋」など25軒の造り酒屋が軒を連ねた。桑原さんは「奈良奉行所の記録ではこれら造り酒屋は江戸にも店を構え、奉行所で酒の味見をしたのち幕府に献上していた」と語る。江戸中期に灘(兵庫)や伏見(京都)が興隆するまで奈良は国内最大の酒生産地を誇った。

 

 奈良の酒造りの歴史で欠かせない建物が奈良市の春日大社にある。その名も「酒殿(さかどの)」。檜皮(ひわだ)ぶきの屋根に煙出しの付いた現在の建物は、江戸時代(1632年)に建て替えたもので国重要文化財に指定されている。

 

 酒殿の創建は平安時代(859年)。ただ「続日本紀」には天平勝宝2(750)年に孝謙天皇が春日酒殿に行幸した記事があり、奈良時代には存在したと考えられている。

 

 かつては全国の主な神社でお神酒造りが行われていたが、同大社の秋田真吾さんは「春日の酒殿は日本最古。しかも現在も春日祭にお供えするためのお酒を醸造している」と話す。

 

 春日祭は849(嘉祥2)年に始まった例祭で「日本三大勅祭」の一つ。毎年3月13日の祭典に供える酒は白酒(しろき=濁酒)と黒酒(くろき=清酒)の2種類あり、酒殿では白酒が造られる。

 

 酒造りは現在、奈良市の奈良豊澤酒造が担い、2月上旬から約1カ月間の毎日朝夕2回、酒殿の温度を確認しながら約400リットルの白酒を仕込んでいる。

 

 同酒造の豊澤孝彦社長は「酒殿の内部はりんとした雰囲気に包まれ、空気感が違う」と歴史の重みを表現。「『春日酒殿預(あずかり)』のお役目を頂戴しているのはありがたい」と感謝しその任に奉じる。

江戸に店を構えた造り酒屋が奉納した石灯籠(右端)=奈良市春日野町の春日大社
石灯籠には「菊屋」や「讃岐屋」の名が刻まれている=同
春日祭で神前に供えられる酒=同

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