【記者ルポ】 目の前で起きた惨劇 - 安倍元首相銃撃

安倍晋三元首相が8日、奈良市で参院選の遊説中に銃撃され、死亡した。記者はその現場に居合わせた。響く2発の銃声音。容疑者を取り押さえる警察官。目線を戻すと、さっきまでそこに立っていた安倍元首相の姿は見えなくなっていた。すぐには何が起きたか分からず混乱したが、事態が飲みこめていくにつれ、目の前で起きた現実とは思えない出来事に体が震えた。
安倍元首相の街頭演説は奈良市の近鉄大和西大寺駅前で午前11時半ごろに始まった。安倍元首相はガードレールに囲まれた道路の中州でお立ち台に乗って演説を開始。記者は中州の西側にある歩道の一部に設けられた取材位置で取材をしていた。
演説が始まって約2分後、安倍元首相の背後にグレーのポロシャツ、黄土色のズボン姿の山上徹也容疑者が黒い箱のようなものを持って近づいていくのが見えた。箱がビデオカメラにように見え、報道関係者かと思っていた矢先に「バン」、少し間を置いてもう一度「バン」と音がし、白い煙が上がった。周囲からは「キャー」「え?何」とさまざまな声が上がった。
山上容疑者は警護にあたっていた警察官が取り押さえた。抵抗する様子はなかった。
何が起きたか分からず混乱気味に安倍元首相に視線を戻すと、そこに安倍元首相の姿はなく、自民党関係者らが集まっていた。「看護師さん」「救急車呼んで」。叫ぶような声にようやく重大な事態が起きたことを認識する。倒れた安倍元首相は関係者に囲まれ、様子はうかがえなかったが、一瞬見えた安倍元首相はあおむけになり、白いシャツの一部が赤く染まっていた。目は閉じられていた。
医療関係者の助けを求める声がし、近くからAED(自動体外式除細動器)が運び込まれた。張り詰めた空気が流れる中、10分ほどして救急車や警察車両が到着。安倍元首相はブルーシートで目隠ししながら救急車に運び込まれ、搬送されていった。
現場には大勢の聴衆がおり、安倍首相のすぐ後ろには国会議員や政党関係者らが並んでいた。
ついさっきまで目の前で話していた安倍元首相の命が卑劣な暴力行為によって奪われたことが、いまだに信じられないし、悔しい。
(竹内涼香)