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【読者プレゼントあり】味わいをビジュアルで表現 アートな地ビールはこうして生まれた - 大和酒蔵風物誌・第7回クラフトビール(奈良醸造)by侘助(その1)

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個性際立つ奈良発のクラフトビール

すてきにデザインされた缶ビールとの出会い

 秋から冬にかけて酒蔵は仕込みで忙しい。一昨年、この時期にある蔵に取材を申し込んだが「今忙しいから勘弁して」と断られた。確かに、限られた人数で運営される現場では、繁忙期に本業以外で手を取られるのは避けたいにちがいない。出荷サイクルの乱れや、下手をすると品質低下につながる恐れさえある。今年は、だから、この時期は敢えて酒蔵に伺うことはせず、目先を変えてビールの醸造所にお邪魔することにした。ビールといっても、一般的なビールではなく、クラフトビール。奈良県には数件醸造所があるが、今回訪ねたのは、奈良市北之庄西に工房を構える「奈良醸造」。

 

「FUNCTION」と「BIFUR」

 

 昨年の忘年会の時期に若草山の中腹にある「ANDO HOTEL」(アンドホテル)で食事をする機会があって、そこに奈良醸造のビールが置いてあった。珍しいので始めのビールとして一杯目を注文した。すると、ふつうの生ビールのようにグラスに注がれた状態ではなく、缶のままのビールが小さなグラスとともに運ばれてきた。よくみるとけっこうオシャレなデザインである。そこにはビールの名前とおぼしきタイトルもあって、メニューを再度確認すると同じ醸造所で名前の異なるビールがもうひとつある。


 まずは目の前にあるビールをグイっと呑んで、その爽やかでありながら腰のある喉越しを楽しむ。これまでの少ない経験からの偏見でクラフトビールは濃いものというイメージをもっていたが、それを良い意味で裏切ってくれた。当然のごとく2本目も注文する。すると、今度は前のとは違う少し明るめのデザインの缶で、名前の書体も違うビールが出てきた。そのイメージどおりにさらにすっきりとした味わいを楽しみながら、今度の取材先はここにしようと決めた。

 

ビールを飲むと痛風になるのか?

 アルコールのなかでもとくにビールは、尿酸値を高めるという。筆者はかつて無類のビール好きで、若いころは、酒席のはじめから終わりまでビールを呑んでいて平気だった、というか好んでそうしていた。ビールのスッとした喉越しは何ものにも代えがたく、しかもどんな食べ物にも合うし、アルコール度数もそれほど高くないから悪酔いすることもない。最近あまり見かけないが、家で呑むときにも1リットル缶や750ミリリットル缶を買って帰るのが常だった。そんな習慣を20年以上続けた必然の結果として、ある日痛風を発症した。あの時の痛みといったら、今でも思い出すだけで足の指の付け根がうずうずしてくるほど。


 それから医者にかかって薬を処方され、いったんなってしまったからには一生薬を飲み続けなければといわれた。二度とあんな思いはしたくないので、しばらくはいわれたとおりにしていたが、喉元過ぎれば何とやらで、通院がめんどうになって行かなくなり、いつしか薬も飲まなくなった。その後もときどき発作の前兆がくるので、ロキソニンで抑える日々が続いたが、別のきっかけで痩せると決心して、食生活を改善し、定期的に運動をするようになった。そのおかげで10キロ以上体重を落とすことに成功。すると、これまで異常だらけだった健康診断の数値がかなり改善された。尿酸値も10前後あったのが、いつのまにか7・2まで下がった。

 

 それでも、この間、食生活の改善といっても、主に量を意識して減らしただけで、濃い味や脂っこい料理は続けて摂っているし、酒量もまったく減ってはいない。ビールも、さすがに昔ほどではないにしろ、あいかわらずその喉越しは楽しんでいるし、とくに暑いときには、1杯目だけでなく、3杯も4杯もジョッキを空けることもしばしば。


 そんな経験から察するに、ビールが痛風の原因であるという説は必ずしも正しくない。それは、むしろビールに限らずアルコールの過剰摂取、つまり呑み過ぎや、偏った食生活、それから運動不足にある。痛風現象とビールを過度に結びつけるのはビールを不当に貶めるものだ。薬に頼ることなく、我が身の体験から学んだ貴重な教訓である。


 ただ、尿酸値7・2は、実は、けっして及第点ではない。健康診断の際、数値が下がったことを手放しで喜んでいたら、問診医から「7以上あれば発作はまた起こりますよ」との冷淡な通告。確かに、最近でもごくたまに何か足に違和感を感じてロキソニンのお世話になっているから思い当たる節もある。あと0・2。食事の量を減らし、運動を積極的にするようになったとはいえ、酒量も偏食もそのままであれば越えられない壁ということか。お酒とプリン体満載の食事が生きる糧となっている我が身にとって、それはあまりにも高い壁というほかない。

 

浪岡安則代表取締役兼醸造責任者

 

缶ビールに活路 新型コロナ契機に「宅呑み」需要にこたえる

 奈良醸造には以前に一度お邪魔している。事業を立ち上げてすぐの頃で、記憶にあるのは、東京の一部の店舗に卸しているだけでまだ販路は限られていると、代表取締役と醸造責任者を兼務する浪岡安則さんがお話していたことだ。会社の設立は2017年で、実際造り始めたのがその翌年からというので、お会いしたのはおそらく2019年頃のことだったと思う。樽で卸していたから、浪岡さんのビールを呑もうとすれば、クラフトビール専門店しかなかった時代だ。販路がごく限られているので、醸造所には浪岡さん以外に人影がなく、ガランとひっそりしていた印象が残っている。


 今回取材を申し込もうと電話を入れると、女性のスタッフが出て「社長のスケジュールを確認します」と応対してくださった。あの頃と違ってスタッフを雇うまでに大きくなったんだな、よかったな、と思う。そして、醸造所にお邪魔すると、そのスタッフも数人いるようで、いよいよ奈良醸造のビールが世間に広く受け入れられていることを実感する。前回お話を伺ったときにはあまりモノもなかったスペースは、今はビールを試飲したり関連グッズを販売するタップルームになっていた。さまざまなビールやグッズで満たされたその空間は、寂しさから一転してにぎやかさを感じることができる。その間約5年。


 「あれからすぐコロナ禍になって大変でした。始めて1年半のことでした。緊急事態宣言が出されて、ビールを卸していた専門店からの注文がストップして、経営もかなりしんどくなりました。そんな中で何とか事態打開との思いで、コロナ補助金を使って缶ビール充填の機械を購入しました。以前から缶の必要は感じていましたが、そこまでの余裕はありませんでしたから手がけられなかった。でも、飲み屋さんで樽のビールが売れないとなると、どうにもなりません。そこで、奈良県からの補助金があることを知ってこれを利用しようと思ったのです」と浪岡さんは当時を振り返る。

 

缶ビール充填機の一部


 その甲斐あって、当時半ば強いられて起こった「宅呑み」需要に応えることができた。多くの会社が事業を守るのに必死だったあの頃、需要の変化をにらんだ設備投資ができたのは、浪岡さんにかなりの慧眼があったといえる。


 「いやいや、そんなたいしたことではなくて、あのとき誰もがどうしたらいいかわからなかった中で、自分はその時にできることをしようと考えただけです。実際、コロナ禍の最中には缶ビール生産はフル稼働できましたが、何とか在庫を売りさばくだけで精一杯でした。それでも、今から振り返ると、それまで樽売り一本でしか営業できていませんでしたが、それを契機に缶売りとの二本柱ができたおかげで、販路をより広げることができたのはよかったと思います。ただ、それは結果的にはという意味で、当時は本当にたいへんでした」(浪岡さん)。

 

 

 幸か不幸かコロナをきっかけに奈良醸造の営業が新しい局面に入る。クラフトビールショップでの販売はもちろん、缶を導入したことで、ビールの表現にビジュアルを活用するという、より個性的なアピールができるようになった。それが、缶に描かれた印象的な名前とデザインである。

 

 「同年代で面白いことをやっている仲間が集まる飲み会があって、そこであるデザイナーと出会いました。私はビールを造るにあたってコンセプトを大切にしていて、これを味わいだけでなく視覚化できないかと思っていました。ビールってグラスに注ぐとほぼ同じなんですね。でも、味はそれぞれに違うのでこれを何とかビジュアル化できないかと」。


 「そんなことを考えていたところだったので、同じ世界観や美術的嗜好を共有し、しかもビール好きな彼との出会いは幸運でした。奈良醸造のビールに定番はほとんどありません。月に2~3種類造るのですが、すべて違うというのがうちのビールの特徴ともいえます。それにはまず私自身のなかにこういうビールをつくりたいというコンセプトがあって、これに名前をつけます。それをデザイナーに伝えてラベルのデザインを考えてもらいます。造り手である私には苦手な表現の部分を彼に補完してもらうのです。協業を始めてからずっと阿吽(あうん)の呼吸でやっています」(浪岡さん)。(その2に続く)

 

読者プレゼント 「Integral」を抽選で3名様に

 

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