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【動画あり】奈良・生駒山麓のうまいもんと美酒を堪能 お気に入りの食器とともに - 大和酒蔵風物誌・第6回「菊司 菩提酛」(菊司醸造)by侘助(その4)

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奈良のうま酒を楽しむ【読者プレゼントあり】

絶品の練り物と宝山寺みその田楽

 前回の奈良県御所市とはうって変わって、生駒市で酒のアテ用の食材をみつけるのは難しかった。行って美味しそうなお店はたくさんあるのだが、いざ食材となるとこれといって挙げられるものがない。それでも、さる筋から生駒駅前に練り物をやっている店があるとの話を聞きつけて、早速行ってみた。通称「びっくり通り商店街」の入り口付近にある「てん天」という名前のそのお店は、確かに店の前に様々な練り天が並べてあったが、その横ではカレーやラーメンなどを提供するイートインスペースがある。その「びっくり通り」をもう少し奥に行ったところで「カレイヤー自販機」と称する冷凍カレーの販売機までやっている。どうやらカレーにもこだわりがある店のよう。

 

「てん天」の練り天詰め合わせ


 そのカレーの匂いにもそそられたが、今回はあくまでお酒のアテなので、練り天を頂くことに。ショウケースのなかには、玉ねぎやコーン、紅ショウガ、ごぼう、うずら卵など数えきれないほどの種類の練り天がずらりと並び、初めての者からすると、どれも美味しそうで、何を選んだらいいかにわかに判断しきれない。なので、10種類程をひとつのパックにまとめた詰め合わせを頂いた。選ぶ手間が省けるし、このほうが100円お得なのだそう。


 今回はこれをメインにしてやろうと決めたはいいものの、さて、どうしたものか。筆者はさつま揚げが大好物で、毎年知り合いから鹿児島産の練り天を頂くのを楽しみにしている。これは、煮物やおでんにしても美味しいが、そのまま食べるのがいちばん旨い。だから、今回もそのままがいいかとも思ったが、それではあまりにも芸がないので、季節外れのおでんなんかにすれば、また日本酒にはピッタリかとも思った。そのままとおでんと両方食べれば2度楽しむこともできる。

 

宝山寺「宝山寺みそ」


 そんな構想を練っていたら、大事なものを思い出した。そういえば、駅から生駒山を上っていくと宝山寺があって、そこに有名な「宝山寺みそ」がある。考えてみれば、生駒の名物でこれを外したら話にならない。それほど有名だし、美味でもある。宝山寺では毎年12月1日に「聖天さんの大根炊き」という祭事が行われるが、宝山寺みそはそのとき使用される味噌だれを商品化したもの。聖天さんに奉納された御神酒を使っているという。早速これを分けてもらいに宝山寺に車を走らせた。

 

 

 その道中、練り天に味噌だれとなれば、自ずと然るべき料理として、田楽が結論として導かれた。予定を変更して、みそを手に入れた後、菊司醸造の近くにある「DCM南生駒店」に産直コーナーがあったので、そこで季節ものの丸茄子とピリ辛風味のこんにゃくを仕入れて、準備万端。

 

 

 

黄瀬戸のぐい吞み 種子島の徳利 赤織部額皿

 今回の器は、以前お皿を紹介した松村遷さんの黄瀬戸ぐい呑みをメインにした。桃山時代の茶碗に当時は向付だった器を茶碗に見立てた黄瀬戸茶碗がいくつか伝わっていて、松村さんはそのイメージに基づいてこのぐい呑みをこしらえた。桃山黄瀬戸に特有のいわゆる油揚肌で、砂地からじわっと水が滲み出てくるような雰囲気がよく再現されている。胴部にさされた鉄と銅によるアクセントも黄瀬戸特有の表現で、油揚肌に深みをもたらしている。

 

 

松村遷「黄瀬戸ぐい呑み」

 

 徳利は種子島で作陶をしている池田省吾さんの作品。購入した際一輪挿しとされていたが、筆者はもっぱら徳利に見立てて使用している。池田さんは器の表面に独特な絵を描く作風で知られ、その手の作品が売りに出されるとすぐに売り切れてしまうほどの人気作家。だが、筆者は絵柄のある器はあまり好まないので、たまたまギャラリーで売れ残っていたこの焼き締めの作品が気に入って購入した。種子島の土を使っているらしいが、この首をキュッと締めて、肩を少し張らせて、ゆるやかに腰を張らせる造形と、焼成中にかかった灰が織りなす景色に魅せられた。この方、もちろん、絵も悪くないが、もっとその造形力が注目されていい。

 

池田省吾「種子島焼き締め徳利」

 

 お皿は、美濃に窯をもっている西岡悠さんの赤織部額皿を選んだ。この方、黄瀬戸のエキスパートだが、最近は美濃陶全般にレパートリーを広げて表現の可能性を追求している。織部といえば、銅緑釉を用いた青織部やそこに赤土を加えた鳴海織部が有名だが、赤織部はその鳴海織部から銅緑釉を引いたものをいう。比較的地味なその相貌から、数ある織部の種類のなかではかなりマイナーな存在で、これに取り組む作家はそうはいない。この額皿は器として主張し過ぎず、かといって単なる脇役にとどまらない造形美を備えているので、食卓全体を引き締めるかなめの役割を果たしている。

 

西岡悠「赤織部額皿」

 

 

漆芸家八尾さつきさんの仕事

 これまでこだわりの箸はなかったので、箸への言及はしてこなかったが、今度新顔としてとても素敵な箸が仲間に加わった。奈良在住の漆芸家八尾さつきさんの作品で漆の箸に沈金で模様を入れ、頭の部分を螺鈿で装飾したぜいたくな箸だ。この3月に開催された奈良新聞主催の「奈良工芸の粋展」で出品されていたのを一目で気に入って購入した。ふだんづかいにするにはもったいなく、特別なときだけ登場するが、この箸で食べるとどんなものでもぜいたくに感じるから不思議だ。やはり、道具が食べ物に与える影響は大きい。

 

八尾さつき「沈金箸 忍」


 箸置きも新入り。その「工芸の粋展」で、今回人間国宝の北村昭斎さんの追悼展示をして、そこに賛助出品として同じ人間国宝の今泉今右衛門さんにも作品を出品頂いた。その御礼にこの春有田の今右衛門窯を訪問する機会を得、その際ギャラリーに陳列されていたこの箸置きに眼が行った。今右衛門窯の伝統技法「墨はじき」が使用されたシックな文様が良かったし、何より八尾さんの沈金箸を手に入れたばかりだったので、思い切って分けて頂いた。今右衛門さんの他の大物にはとても手が出ないが、この作品は比較的リーゾナブルで、なおかつ実用性も高いことからの判断である。八尾さんの箸と今右衛門さんの箸置きで、料理を味わうときの手元がにわかに豪奢になった。

 

 

今泉今右衛門「墨はじき箸置」

 

 

地元のうまいもん お気に入りの食器で菊司を味わう

 いつものアテと同様田楽もまた簡単な料理で、茄子は油で焼いて、こんにゃくは軽く煮込むだけでできあがり。あとは、そのままの練り天にそれらを添えて、宝山寺みそとごまを少々かけて食す。シンプルだがとても美味。辛口の「菊司」に甘い味噌だれが良いコントラストをなして、互いを引き立てる。唐辛子入りのこんにゃくも同様に、みそがピリ辛を強調して、味に幅を広げる。季節ものの丸茄子のみずみずしさがみそとごまの風味でよりいっそう感じられる。

 

 その意味では今回みそが準主役のようになったが、「てん天」の練り天が特別美味しかったことは特筆しておかねばならない。これにみそだれが合うだろうと思いついて今回のメニューを決めて、実際そうしたものの、これにはみそは不要だった。というのも、そのままで十分甘くて美味しかったからである。魚身の旨味がギュっと詰まっているような、そんな濃厚な味がして、これにはむしろ何もつけるべきでない。それに、今回その練り物にショウガやネギが混ざっていたが、これだけ味が詰まっているのなら、今度はぜひプレーンで食べてみたいとも思った。これはやみつきになりそうだ。(第6回了)

 

 

 

 

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