NARA―Xに競歩選手初加入・下岡 仁美 目標は世界陸上代表 - 輝く奈良のアスリート
日本インカレ10000メートル・全日本競歩能美大会20キロ・関西実業団選手権5000メートル・全日本実業団10000メートルで優勝
奈良県に拠点を置くクラブ型実業団女子マラソンチーム「NARA―X(ナラックス)」に、初めて競歩選手が加入した。下岡仁美(22)。大学4年次には日本インカレ10000メートル、全日本競歩能美大会20キロで優勝。社会人になってからも関西実業団選手権5000メートル、全日本実業団10000メートルで栄冠を手にした。現在は、来年9月「東京2025世界陸上」の代表入りを目指している。いかにして競技と出合い、現在に至ったのかを聞いた。
プレッシャー克服、成長
陸上界初のクラブ型実業団チームの「NARA―X」の所属選手は、それぞれが県内の個別企業に勤め、フルタイムで勤務している。下岡も移籍と同時に平川商事に入社し、天理市の「奈良健康ランド」で働くことになった。 現在はまだ研修中のため、組織を知るために各部署を回っている。「この間は、サウナで(蒸気を立ち上らせる)ロウリュウをしました」と、大きなウチワで扇いで熱波を送る仕草をしてみせる。職場がレジャー施設のため、将来はウォーキングイベントを実施したいと考えている。奈良マラソンでも「競歩体験会」の講師を勤めた。
下岡が本格的に陸上を始めたのは中学に入ってから。小学生時代から走るのが好きで、自信もあった。迷うことなく陸上部を選んだ。最初から長距離を希望した。
進学した高校でも陸上部へ。週に一度、競歩の練習もあり、競技と初めて出合った。
自らの専門競技として「競歩」を意識するようになったのは3年に進級してすぐの記録会。5000メートルで23分台を出した。それまでの自己記録を1分30秒ほど縮めた。
「2年の冬に貧血気味になり、体重も減退。おまけにけがも重なった。どん底だった」と話す。1月の新人駅伝でエースとして出場することになり、それがプレッシャーだったのかも知れない。実際、その時の下岡の走りは振るわなかったが、他のメンバーが頑張りチームが目指していた結果を残してくれた。「それで、自分の中の重しが取れたように感じた」という。タイムを気にせず楽な気持ちで臨んだ結果、「これなら諦めていた全国に行けるかも」と、競歩に専念する。その年(2019年)のインターハイに出場し、全国で4位に入賞した。それがきっかけで同志社大への進学も決まった。
「長距離に挑戦」移籍決断
大学に進学し2年で出場した日本インカレで3位となり、翌年優勝を目指したが結果は8位。気持ちの中ではそれで区切りを付けた。就活は陸上とは関係のない企業を選び内定も得た。これで本当に最後という思いで、4年の夏に出場した日本インカレで念願の優勝を手にした。「このまま辞めてしまっていいのか」という思いが湧き上がる。内定していた企業を辞退し、就活を再スタート。競技者として極東油業に入社した。
今回、移籍という大きな決断をしたのは、「もっと長い距離の競技に挑戦したい」という思いが強くなったからだ。「長い距離」の先には、世界陸上、そして五輪がある。
「女子のフルと、競歩の35キロはだいたい同じタイム。給水やエネルギー補給、駆け引きのタイミングなど学ぶべきことが多い」とNARA―X入りを決めた。
「高校、大学と自分でプレッシャーをかけ過ぎて失敗してきた」と振り返る。その度ごとに「楽しみながら競技すること」で救われてきた。
新年1月1日には、東京の明治神宮外苑で開かれる「第73回元旦競歩大会」(10キロ)に出場。NARA―Xの選手としてのデビュー戦となる。その後、2月に神戸で、3月には石川で世界陸上の選考レースが待ち構える。気負わず、楽しみながら最高の結果を出してくれることを期待したい。(有賀哲信)
プロフィル
しもおか・ひとみ
2002年2月26日生まれ。大阪府堺市出身。府立泉陽高、同志社大、極東油業を経て、24年11月に「NARA―X(ナラックス)」に移籍する。23年日本インカレ10000メートル競歩優勝。24年には全日本競歩能美大会20キロ、関西実業団5000メートル、全日本実業団選手権10000メートルで、それぞれ優勝する。24年度の10000メートル・5000メートルの日本ランク2位。20キロ日本ランク6位。JOCオリンピック強化指定選手にも選ばれている。
2024年12月18日付・奈良新聞に掲載