大和古寺・お参り日記【16】 - 唐招提寺(下)
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金堂の石段を上がると、正面に本尊の盧舎那仏(るしゃなぶつ)坐像が安置されている。奈良時代の作で、国宝に指定されている。
盧舎那仏が説いたとされる梵網経(ぼんもうきょう)の冒頭部分には、「千枚のハスの花びら一つ一つに百億の国があり、千百億の仏(釈迦)が一緒に生まれ一斉に悟りを開いた」とある。
その文言の通り、蓮華(れんげ)の台座に座る盧舎那仏の光背には、化仏(けぶつ)という小さな仏様が無数に配置されている。今は862体が残され、本来は千体だったという。
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中指を折って3本の指を立てた珍しい右手の印相について岡本元興長老は「吉祥を表わす印相だと思っています」と教えてくださった。同寺では盧舎那仏に釈迦の真言を唱えるのだという。
盧舎那仏は宇宙そのものだと聞いたことがある。一人一人の生きる世界があり、そこに人間として悟りを開いた釈迦が存在する。その宇宙を仏像という目に見える形で私たちに示してくれているのだと思った。迷いの中で盧舎那仏に手を合わせた時「いいんだよ」と言ってもらえた気がした。誰もが自分自身の宇宙を生きていい―。仏像には深い教えが刻まれていることを知り、あらためてその世界を感じながらお参りをしたいと思った。