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【動画あり】消えゆく「墨をする文化」 伝統産業を絶やさない日本一小さな奈良の墨工房の挑戦

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奈良が誇る伝統産業

 奈良の伝統産業である墨。現在墨屋は全国で9軒、うち8軒が奈良市内にあり、そこで全国総生産量の9割以上が生産されている。そしてこの寒い冬の時期こそ、墨づくりは最盛期を迎える。その中の1軒、約150年続く日本で一番小さな墨工房、錦光園(きんこうえん)を訪ねた。

 

 迎えてくれたのは錦光園七代目、長野睦(あつし)さん、47才。墨づくりの現場を見せていただいた。初めて足を踏み入れる墨工房は全てが黒に染まった静寂な空間。おそらく何十年もこの風景は変わっていないのだろう。時計の針が止まっているような感覚がした。

 

錦光園七代目、長野睦(あつし)さん

 

全てが真っ黒、錦光園墨工房

 

学校教育から消えゆく「墨をする」文化

 墨の主な原料は膠(にかわ)と煤(すす)で、動物由来の膠は腐りやすいため、墨は冬の時期につくられる。その後、長い時間をかけて乾燥させ、1本の墨ができるまで約1年かかるという。そのためどうしても高価なものになり、小学校など多くの教育現場では墨汁が使われている。

 

 「子供の時に墨を使うことがなければ、その先大人になっても使うことがないのでは。伝統産業であり多くの墨屋が奈良市内にあるというのに、その市内の学校でさえ墨汁を使っている。しかも教える先生でさえ、墨をすった経験の無い人がいる」。長野さんはこの現状を憂える。

 

 墨をつくるだけではもはや産業が成り立たない。そこで長野さんは墨の魅力を伝える活動を行っている。全国各地を飛び回って児童や小学生たちに墨に触れる機会をつくろうと、ワークショップを開催している。

 

 

国産松煙を次の世代に 

 一方で、墨づくりに欠かせない材料でありながら、消滅の危機にある「国産松煙(しょうえん)」の生産と継承に乗り出した。赤松の木を燃やした煤でつくる松煙墨は1400年前に大陸から伝わったものだが、今はその松煙を国内で生産しているところが1社しかない状況。生産設備を整え、松煙墨を次の世代に残そうとクラウドファンディングで資金提供を呼びかけた。

 

 集まった資金は500万を超えた。長野さんは「錦光園にというよりは墨の業界全体、生産地に対しての応援、支援だと思っているので、賛同していただける作り手の方がいれば一緒に進めたい」と語った。

 

  1400年続く伝統を、次の世代へ。奈良の小さな工房の挑戦は、静かに確かに火を灯し始めている。

 

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