【写スポーツ】大空に描く放物線 - 十津川高校陸上部「やり投げ」
投てき種目の一つ、「やり投げ」。助走をつけ、やりを遠くに投げ距離を競う。やりの重さは男子が800グラム、女子は600グラム。長さは男子が2・6~7メートル。女子は2・2~3メートル。助走路の長さは約30メートル。投てきラインの手前から約30度の扇形内に投げなければならない。ただ、飛距離が伸び続け、他の競技に支障をきたす恐れや危険回避を理由に1986年、男子のやりは重心位置を変え、落下を早めるルール改正も。ちなみに新ルール後の世界記録は96年、チェコのヤン・ゼレズニー選手が樹立した98メートル48。
やり投げの歴史は古く、狩猟をルーツに古代オリンピックでは紀元前708年から行われていたといわれ、近代オリンピックでは1908年のロンドン大会で男子競技、32年のロサンゼルス大会から女子競技に導入されて以来、継続し実施されている。今夏のパリ五輪女子やり投げで金メダルを獲得した北口榛花選手の活躍は日本中を熱狂させた。
もっと遠くへ-インターハイ3位の瀧本啓介、国スポへ調整
奈良県高校新も視野に
奈良県内に目を向けよう。7月29日、福岡県など北部九州を中心に開催された全国高校総合体育大会(インターハイ)の陸上競技男子やり投げで十津川高校の瀧本啓介選手(2年)が3位に入った。
今年創立160年の十津川高校。県内で最も南に位置し、雄大な自然と地域の温もりの中で生徒数は決して多くはないが「やればできるを学べる学校(ところ)」をキャッチフレーズに掲げ、部活動にも積極的に取り組んいる。
陸上競技部は3年生が巣立った現在、部員は2年1人と1年2人で、いずれも男子。ほかに女子マネジャー2人(ともに2年)が在籍。これまで、ほとんどの生徒が高校入学後に競技を始めているが、県大会上位入賞、さらに近畿大会や全国大会進出に意欲を燃やし、競技場練習や記録会など校外へも出向く。
瀧本選手も高校から始めた。「兄に勝ちたい」と2歳上の兄の後を追い、選んだやり投げで頭角を現した。
3年の増谷洋輝選手と出場したインターハイ。ともに決勝に駒を進め、瀧本選手は決勝2投目の試技でトップに立つなど躍進した。顧問の辰己裕門教諭(31)は「2人が切磋琢磨(せっさたくま)し、結果を残した。増谷の功績も大きい」と評価。瀧本選手は今月13日、滋賀県彦根市であった近畿高校ユース陸上競技対校選手権大会男子2年の部で頂点に立った。
一見すると単純に見える競技だが、自分の身長より長いやりを遠くに投げることは容易ではない。投げる前の助走が30メートルもあり、スピードをいかにうまく投てきにつなげるか。その技術が記録を左右する。やり投げでは、野球のボールを投げるような投げ方は一度リセットする必要があるともいわれる。
県高校記録は2012年、岐阜市で開かれた国民体育大会で当時、同校3年の寒川建之介選手が打ち立てた72メートル53で、いまだ破られていない。瀧本選手はこの記録を視野に入れ、10月11日から佐賀市内で始まる国民スポーツ大会に向け、調整に励んでいる。(写真・文 牡丹賢治)
十津川高校陸上競技部
選手
瀧本啓介(2年)
後木伯斗(1年)
峯砂雄一(同)
マネージャー
増谷莉奈(2年)
前岡芽依(同)
各県代表選手と頂点を競う瀧本選手。試技の合間、イメージトレーニングを繰り返す=平和堂HATOスタジアム
どれだけ遠くに投げられるか競うシンプルな競技だが奥が深く、2メートル以上あるやりが、70メートル近い距離を放物線を描き、勢いよく地面に突き刺さる。より遠くへ―。高みを目指し反復練習に励む
雄大な自然と地域の温もりの中、顧問の辰己裕門教諭の指導でめきめき記録を伸ばす
身体能力の向上などを目的に基礎トレーニングにも力を入れる部員
2024年9月25日付・奈良新聞に掲載