鹿せんべいは鹿にとっておやつのようなも…
鹿せんべいは鹿にとっておやつのようなものだそうだが、久しぶりに奈良公園を訪ねて驚いた。話には聞いていたが、鹿せんべいにそっぽを向く鹿と鹿せんべい売り場の行列だ。
興福寺近くの売り場には外国人観光客が列をなし、家族の分だろうか、まとめ買いする客もいる。売り子の男性は息つく暇もないようだった。
奈良国立博物館へ歩きながら見ていると、せんべいを差し出す観光客につれない鹿が多い。群がる鹿にせんべいを奪われるどころか、食べてくれる鹿を探す観光客も。
江戸時代に描かれた大和名所図会には、春日大社参道の茶店で鹿にせんべいのような餌を与える客が描かれている。当時からせんべいは観光客と鹿のコミュニケーション手段だった。
せんべいは食べてくれなくても、鹿が奈良公園のシンボルであることに変わりはない。今の時期は公園内で出産した母子鹿の姿も気持ちを和ませてくれる。
観光客が激減したコロナ禍の渦中には、せんべいをもらえなくなった鹿が飢えているとうわさされた。鹿は世につれ。奈良公園の鹿は満ち足りた表情の方がいい。(増)