質問「悪いことをすると地獄へ行くのでしょうか?」 - 「我知(がち)」ーお坊さんに聞いてみる(2023年10月18日)
質問
悪いことをすると地獄へ行くのでしょうか。
(男性 50代)
回答
堀内 瑞宏(秋篠寺住職)
【我知なヒント=普段は意識していないだけで地獄は身近にあるものです】
悪いことをしなくても地獄は来るものです。地獄絵と聞けば、沸き立つ血の池や針の山、賽(さい)の河原の鬼などを思い浮かべるでしょう。これらの表現は、現代人が裸足で野山を歩けばそれが針の山になるように、現実から想像されたものと考えられます。
では身近な地獄を想像してみてください。家の屋根が無くなれば~ 雨雪日照りの地獄です。壁が無くなれば~ プライバシーゼロの地獄です。家そのものが無くなれば心の置き場所が無くなります。
普段は意識していないだけで地獄は身近にあるものなのです。そしてわれわれは、それをすでに知っています。なぜなら各地域の震災や豪雨や氾濫から避難した先の、壁もプライバシーもない避難所の様相や、その中で起きた痴漢・窃盗・暴力などの事件が伝えられているからです。
私が現場の人から聞かされた「地獄のようだった」という言葉は強く印象に残るものでした。
では地獄と反対に極楽は何を表現しているのでしょうか。これは俗世坊主の私見ですが、感謝の積み重ねではないかと思います。例えば災害で家が壊れた時、元に戻してほしいと思うのは自然なことでしょう。ただ、復元完成だけを見ていると、一度の感謝で終わってしまいます。
壁や屋根ができることでプライバシーや雨風の心配が要らなくなるなど、心が楽になることに対して一つ一つ感謝を重ねた場合、家が復元された時の心の豊かさに差が生まれるのではないでしょうか。
感謝を重ね心が楽になることが極まる領域、これが極楽と表現されるものの一端ではないかと思います。そして地獄の鬼とは感謝することを忘れた人間を表現しているのかとも思います。
余計なことですが、仏門の徒としてはそれら鬼のような存在に感謝の念を思い出させ極楽へいざなう役目を果たしたいと思う次第です。
地獄に行くから悪いことをしないのではなく、感謝を忘れることなく前を向いて進む。そのような人生でありたいものですね。
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【掲載日】
毎月第1、3水曜日「暮らし」のページ・奈良新聞デジタル