俳優・奈良市特別観光大使 加藤 雅也さんに聞く - ガストロノミーツーリズム世界フォーラム
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俳優・奈良市特別観光大使 加藤 雅也さんに聞く
「奈良は食に満たされた地」と話す加藤雅也さん=3月16日、奈良市高畑町のホテル尾花
食に満たされた地 奈良の真価 知らせたい
奈良市出身の俳優、加藤雅也さん(同市特別観光大使)は、テレビ出演などさまざまな機会を通して奈良の魅力を発信しています。「奈良の人にこそ、もっと奈良を知ってほしい」という加藤さんに食文化を含めた奈良の真価について語っていただきました。
奈良にこそ「うまいものあり」
ー奈良の食について、どんな印象をお持ちですか。
加藤 奈良で食事をすると、ごく普通のお店で驚くほどおいしいものに出合う、ということがよくあります。定食屋やスパイシーカレーのお店など、ジャンルも多彩です。
ー「奈良にうまいものなし」なんて言われますが。
加藤 確かに全国ネットのテレビ番組などで「奈良の名産物は?」と問われると、珍しいもの、特徴的なものが結構少なく、ちょっと悩むことがあります。でも、それは「奈良にうまいものなし」だからではなく、むしろその逆。奈良が食に満たされた地であることの証しだと思います。
飛鳥京から藤原京、平城京と古代の都が置かれ、伊勢参宮のルートでもあった奈良には、はるかな昔から多くの人が行き交い、最新の文物が集まっていました。その中にはもちろん、それぞれの時代の最新グルメも含まれていたはず。
だからこそ、海のない奈良で早い時期から海魚の刺し身が食され、新鮮な野菜が手に入った。遣唐使が大陸からナマコなど、まさに当時の最新グルメを持ち帰った記録もあり、氷や酒をつくる技術も他の地域に先駆け、この奈良で進歩しました。
何でも手に入る。だから、ことさらに特産品を作り出す必要がなく、日常的に豊かな食を楽しんできた。それが、奈良の食文化だと思います。
唯一無二の贅沢 柿の葉ずし くずきり かき氷……
ー奈良テレビ放送で土曜午後9時30分から放映中の「加藤雅也の角角鹿鹿」で、奈良の「おもろいもの」「おもろい人」そして「おいしいもの」を紹介しておられます。ロケ中あるいはプライベートで見つけた印象的な奈良の食について教えてください。
加藤 いろいろあって迷いますが…。宇陀で食べた作りたてのくずきり! これは衝撃的でした。くずきりは東京でも売っていますが、作ってから時間がたったものはまったく味が違う、ということをその時、初めて知りました。
ほかにも、キーンと頭が痛くならないかき氷や名店のそば、そして柿の葉ずしなど、その場所に行かなければ味わえない最高の贅沢(ぜいたく)品が奈良にはいっぱいあります。
ー柿の葉ずしは、結構、いろいろな場所で手に入るように思いますが。
加藤 いや、吉野を訪ねた時に食べた柿の葉ずしが、ものすごくおいしかったんです。新幹線の中で食べる柿の葉ずしも悪くないけれど、何かが違う。吉野の水で洗った米を吉野の水で炊き、吉野の柿の葉で包んだ柿の葉ずし…。そこに、吉野の空気の中で味わうという条件がそろったとき、唯一無二のごちそうになるのだと思います。
オンリーワンの魅力 「特別な奈良」
ーテレビ出演や写真展などさまざまな角度から、奈良の魅力を発信されています。
加藤 僕の狙いは「まず、奈良の人に奈良のことを知ってもらう」というところにあります。奈良は日本国内はもちろん、世界を見渡しても、オンリーワンの魅力にあふれた特別な場所。とにかくたくさんの人に来てもらえばよい、という方向で動いたら、奈良の良さが薄れてしまう。奈良だからこその魅力に気づいた人が全国から、世界からやって来てくれるように、「特別な奈良」を追究することが大切です。それにはまず、奈良の人が「奈良って、すごいんちゃう?」と自覚しなければ。奈良の人が奈良を理解し、奈良を楽しむ、すべてはそこから始まります。
ーそのように思われたきっかけを教えてください。
加藤 僕も最初は多くの若者と同じく、単純に(生まれ育った場所から)外へ出たいという思いで動いていました。世界へ出たいという気持ちも強く、米国にも行った。でも、そこで、自分のアイデンティティーを語れない人間は相手にされないという事実を突き付けられたんです。
米国には、たとえば「俺はイタリア人だ」って自分のルーツに誇りを持っている人たちがいる。自分はどうかと振り返った時、日本を語れない自分は弱いな、と気づいた。突き詰めていくうち、日本も広い、どうせなら「俺は奈良の人間や」ってふるさとを語れるようにしたいと思ったのがきっかけです。
食の分野をはじめ、素晴らしい文化は全国各地にあるけれど、特に数多く伝わっているのが奈良県。奈良といえば鹿や東大寺の大仏など北部が注目されることが多いですが、中部も南部も、すべて魅力にあふれています。
コロナ禍で他府県や海外の人が奈良に来ることができなくても、県内の移動は大丈夫。コロナが収束した後も、奈良の魅力を知る県民が県内で動き、奈良の経済を動かすことが奈良の安定的な発展につながる、との思いを強くしています。
さまざまな角度から奈良の魅力を発信する加藤さん=同
奈良・四寺巡礼写真展Vol.1を開催
長谷寺の魅力伝える 奈良まほろば館でトークも
奈良まほろば館(東京都港区新橋1丁目)で3月25〜31日の7日間、「奈良・四寺巡礼写真展Vol・1 長谷寺『加藤雅也の視点〜冬・初瀬』」が開かれた。
加藤さんが長谷寺(桜井市)で撮影した数多くの写真を公開。1枚1枚の展示に加え、よりすぐりの250枚を約8分間で見せるスライドショーで同寺の新たな魅力を伝えた。
スライドショーのBGMには僧侶の声明を効果的に使い、写真のほとんどをモノクロで見せた加藤さんは「僕は映画人。耳でも観(み)て、ドラマを感じてほしい」「長谷寺は花の寺。だからこそ、見る人のイマジネーションで色を付けてもらいたい」と解説した。
長谷寺、岡寺(明日香村)、室生寺(宇陀市)、安倍文殊院(桜井市)を巡る奈良大和四寺巡礼を題材とした写真展とトークショーは今回に続き、春、夏、秋と開催される予定だ。