奈良県立民俗博物館巡る山下知事発言受け、日本民具学会が声明 「安易な一括廃棄」懸念 「群として価値」と指摘
奈良県立民俗博物館(大和郡山市)を巡る山下真知事の発言で注目が集まっている民俗資料の廃棄問題について、民具研究者らでつくる「日本民具学会」は18日、ホームページ上に声明を出した。民具(有形民俗文化財)の収蔵問題は全国各地の課題とした上で、地域によっては「安易な一括廃棄が行われようとしている」と懸念と危機感を示している。
声明では、民具は文字記録に残されない民衆の生活史を物語る貴重な資料群と位置付け。美術工芸品などの文化財が優品主義、厳選主義、一点主義なのに対し、「民具の価値は一点のモノにあるのではなく、むしろ『群としての民具』を通して地域の社会・文化の在り方を明らかにできる点に大きな意義」があると指摘した。
同種の民具にも風土や時代による地域差があり、比較することで民衆の暮らしの多様性と変遷を見ていくことができるとし、価値を見極めるには専門家の関与が必要とも訴えた。
その価値は文化財の指定・未指定を問わないといい、「短期的な収支のみに注目して安易に捨て去ろうとすることは、民具だけの問題に留まらず、博物館や学問の理念そのものを脅かす行為」と主張している。
現在価値付けができていない民具についても、「次世代に継承していくことで、いずれ研究が進展した時に未来の地域住民がそこから新しい知見や情報を豊かに引き出すことができる」と強調。一方、博物館の人員・予算の制約や職務のイベント・観光偏重で、整理・調査研究による資料の価値付けが後回しにされてきた現状も問題視している。
県立民俗博物館は収蔵庫で収まりきらず館外で保管する民俗資料の整理、調査をするため、16日から展示を休止した。再開は2027年度を予定する。
山下知事は10日の定例会見で、「(収蔵の)明確なルールを決めた上で、価値のあるものだけを残して廃棄処分することも検討せざるを得ない」「文化財等に指定されていない農機具、しかも同様の農機具を保管し続ける意味はどこにあるのかという議論から始めないといけない」などと述べていた。