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虐待を見過ごさない世の中に - 明日への扉

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 時々、耳を疑うような児童虐待のニュースが入ってきます。信じられないと思う一方、子育てをしていれば、しつけと虐待の違いは何かと悩むことは、誰にでもあることではないでしょうか。虐待の現状と子育てについて、児童養護施設や児童家庭支援センターあすかなどを運営する、飛鳥学院院長の河村善一さんに話を聞きました。

 

 

 

虐待は段階を経て悪化 どの段階で止めるかがポイント

 2000年に児童虐待防止法が施行されて通報件数は増え、令和2年度には20万件を越えています。虐待の定義がそれまでと変わったことや、世間の意識が変わって通報が増えているとも思われます。注目されやすい身体的虐待は割合としては減っており、見た目に分かりにくい心的虐待が増えています。

 

 どの虐待も、急にひどい状況になるわけではなく、段階を経て悪化していきます。そのため、どの段階で止めるかが大事なポイントになります。

 

 虐待には4つの要因があります。

 

(1)密室

 

 虐待は密室で起こります。昔は兄弟姉妹も多く、結婚すると盆や正月には家族を連れて実家で集まりました。自分に子どもがいなくても、甥や姪など赤ちゃんに接する機会もあり、オムツを何度も替える必要があることや、夜中に何度も起きることも、自然と知っていました。

 

 ところが、今は結婚する3組に1組が離婚する時代。母子家庭になり、実家とも関係が悪くなるなどして縁が切れると、親子は孤立します。今はプライバシーを主張することもでき、自ら人を遠ざける状況を作ることもあります。それが子どもに跳ね返ります。子どもは衆目の中で暮らしている方が安全です。

 

(2)子育てに対する無知

 

 孤立した中で育った子どもは、母親と学校の先生しか大人を知らずに育ちます。その子が結婚し子どもができても、子育ての方法を知りません。泣いていると責められている気分になり、何かをしなければとは思うものの何をすれば良いかが分かりません。そこで、強くゆすぶってしまったり、ネグレクト(育児放棄)に繋がります。

 

(3)世間の無関心

 

 虐待は最初からひどいわけではありません。どんな虐待でも必ず段階を踏みます。どの段階で止められるかが重要です。その始めの方の段階で、止めなかった母親以外にも責任はあります。例えば、祖父母を含む親族や民生児童委員、児童相談所、医師など。お節介と思われても、拒否されてでも介入しなければならない場面があります。母子分離も含め、早めに対処する方が子どものダメージが少なくなります。

 

(4)コミュニケーション能力の欠如

 

 もう一つの虐待の要因がコミュニケーション能力の欠如です。

 

 子どもは言葉をうまく話せないこともあります。子どもが何を言いたいのか、大人が察する必要がありますが、その「察する能力」が欠如していることが問題です。

 

 「友だちなんか欲しくない」という子が本当は寂しがりやであるなど、子どもは言葉と思っていることが裏腹なこともあります。

 

 またSNSの普及で人間関係も変わってきています。友だちも「申請」して「承認」してもらうもの。ネットで知り合った人と彼氏・彼女になりますが、実際に出会うとすぐに別れるなど、時間を掛けて関係を作ることが難しくなっており、コミュニケーション能力も育ちません。自分を「盛って」話し、最大限に良く見せるため、悩みがあっても誰にも相談できず、自傷行為や引きこもりなどに向かいます。

 

 

子どもの自立に向けて覚悟を持って育てること

 「しつけ」とは、自立に向けて子どもに必要な力を、親の責任で付けさせることです。時には、子どもの意志に反することをさせなければならない場合もあります。親は常に葛藤を抱えながら、場合によっては虐待に近いことをしてしまいます。特に若い親で余裕がない場合など、つい行き過ぎてしまうこともあります。

 

 しかし、大事なことは、「行き過ぎないように」と考えるより、「子どもを自立させよう」と思う意識を持つこと。覚悟を持って子どもを育て、その行く末に責任を持てるかどうかが重要です。

 

 子どもの意見を聞くことがすべてではありません。「子どもがこう言っているから」と、大人が自分の保身のために子どもの言うことを何でも聞くことは違います。そうして育った子どもは、自分の言うことを聞いてくれる大人ばかり近づけ、厳しいことを言う大人は排除しようと考えるようになります。その結果、社会に出て辛い思いをし、居場所をなくすことにもなります。

 

 年齢に応じた失敗を経験させることも必要です。本当に教えないといけないことは、膝を突き合わせて伝える必要があります。

 

 

子育ては簡単でないからこそ喜びも大きい

 子育ては結果がすべてです。その子が自尊感情や将来に希望を持って、自分を肯定して成長できるか。そこに親として責任を持って支援できるかどうかが大切です。

 

 そうはいっても、子育ては大変な作業です。「いろいろな人を頼って良いので、勇気を出して頼ってほしい」と河村さん。大勢の人が関わる方が、子どものためにもなります。

 

 一方で子育ては楽しいものです。簡単でないからこそ、子どもの成長を感じた時には感動もあります。「最後には必ずプレゼントがあるから信じてほしい」といいます。

 

 大切なことは「親が一生懸命生きているかどうか」です。人に迷惑を掛けず、後ろ指を指されないような生き方をしていれば、子どもも親のありがたさに気付いてくれると河村さんは話します。

 

☆ ☆ ☆

 

 「日本一の児童養護施設を目指す」と河村さん。「施設は『家庭的』でない」と言われることもありますが、そもそも「家庭的」とは「(1)家庭や家族(特に子ども)を大事にする人、(2)家庭ではないがその集団に属する人たちがそれぞれ孤立しておらず、お互いを大事に思い、全員が良好なコミュニケーションを取れている状態」に対して使われる言葉です。従って、すべての家庭が「家庭的」ではなく、ましてや家庭の形式(小規模化)をまねるだけで「家庭的」という意味を使って良いのかと、疑問を投げかけます。

 

 飛鳥学院では、職員が見本となれるような子育てをして、社会にフィードバックしたいといいます。また子育てに悩むお母さんたちの、見学や相談も受け付けています。

 

 「虐待をなくすのではなく、ひどくなる過程の早い段階で元に戻すことが大事」。

 

 河村さんの話を聞くと、子どもを育てる親としての責任や、周りの人たちとの関わりが大切なことを、改めて感じました。

 

 

 

【飛鳥学院】

戦災孤児を受け入れる施設として終戦まもなく1945年に子どもの保護を開始。その後、児童養護施設、保育所、児童家庭支援センター、児童発達支援事業所、学童保育などを運営。奈良県虐待防止ネットワーク「きずな」の事務局も担当している。

Tel:0744・42・2831

メール:[email protected]

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