旅立ちに寄り添う - 看取り士 乗本奈穂美さん
死を見つめて生きる大切に気づく
一般社団法人日本看取り士会奈良研修室
代表 乗本奈穂美さん
新型コロナウイルス感染症流行の影響により、病院や高齢者施設での面会制限が続き、最後の瞬間に会えないという状況が続いていました。このような社会情勢の中で「看取り士」が注目されています。
一般社団法人日本看取り士会(柴田久美子会長、岡山県)の研修を受けた看取り士は1879人。同会奈良研修室代表の乗本奈穂美さんもその一人で、2020年に平群町に同所を開設し、2021年5月から1年間で61人の看取り士を育成しました。(看取り士の数はいずれも2022年5月31日現在)
乗本さんは、看護助手や介護士の経験があり、現場で多くの死と向き合ってきました。「病院や高齢者施設で勤務していると、亡くなった方を偲ぶ暇もない。医師や看護師、職員もそれで良いとはおもっていないけれど、多忙なために向き合う時間もとれないのが現状です」と話します。このような臨終の現状に疑問を感じていた中で、柴田会長の看取り活動に出会い感銘を受け、看取り士として活動する決意をしたそうです。
併設する看取りステーション奈良「ほほえみ」では依頼を受けて、本人や家族の希望がかなうよう準備を整え、臨終の際には家族らと共に立ち合います。最後を迎える本人を、家族が抱きしめて看取りができるようサポートしたり、体に触れながら感謝の気持ちを伝えるよう促したりもします。
体に触れ声をかけながら看取りをする柴田会長(左)=一般社団法人日本看取り士会提供
看取り士として依頼を受けて看取りの場に立ち会った乗本さんは、臨終の瞬間、亡くなる本人から家族へ、命のバトンの受け渡しを感じたそうです。「人の死はロボットのようにスイッチが切れるのとは違います。もし最後の瞬間に間に合わなかったとしても、悔いるのではなく、たくさん感謝の言葉をかけ、しっかりふれあいながらゆっくりと死と向き合うことで、命のバトンの受け渡しができると思います」と乗本さん。
日本人には、最後の瞬間に間に合うことができなかったことを悔やむ“臨終コンプレックス”という特有の感情があると言われます。また近年では、大切な存在を亡くしたことで悲嘆が和らがず、長期間継続し、生活に支障をおよぼしてしまう、遷延性悲嘆障害(せんえんせいひたんしょうがい)という精神疾患も定義されています。
生を受けた以上、死と向き合うときは必ず訪れます。死は暮らしの一部であり、死を見つめて、今生きていることの大切さをしっかりと感じることで、死に対する恐怖や不安が和らいでいくそうです。
乗本さんは「看取り士として、旅立つ本人とその家族に寄り添い、穏やかなその時が迎えられるようサポートを続けたいです」と話してくれました。
【一般社団法人日本看取り士会奈良研修室・看取りステーション奈良「ほほえみ」】
住所:平群町椣原530-5
問い合わせ:070・8525・2845
メールアドレス:[email protected]