開幕が近づく万博 万博に行かないか - 編集委員 松岡 智
「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマの大阪・関西万博の開幕まで、あと70日ほどになった。事業費増、パビリオン建設の遅れ、前売りチケット販売の不調など負の印象が残るためか、今一つ盛り上がりに欠ける状態が続く。人工知能(AI)はじめ未来の技術や機械が加速的に現実になる時代に、未来を夢見た1970(昭和45)年大阪万博ほどの衝撃はないかもしれない。だが今回も、多様な状況の人々の生活を豊かにする先端科学技術・機器が多数登場。出展内容を受け身で楽しむだけでなく、能動的に参加し、考える要素がちりばめられているのも特徴だろう。
「いのち」を題材に特別な発表を行う各界最前線のプロデューサーの一人、県出身の映画作家河瀬直美さんは、日替わりテーマで「対話」する空間をつくる。対話の欠如と違いを認め合えないことでの紛争、分断が頻発する世界に向けた問いかけでもある。今万博はハード、ソフト両面で幅広い世代、立場の人々に訴え、参加をうながす懐深い内容が期待できる。
県の会期中の催事の概要も発表された。はじまりの地を基本に多彩な伝統芸能や歴史、文化のイベントが展開される。県関連だけでもかなりの質と量。パビリオン参加を含む国内外各地、民間の展示、催事は想像以上の規模になるとみられ、物足りないどころではない。
では、関西では何十年に一度の万博にどう向き合うべきか。経済団体の会合では、万博を生かした経済活性化が盛んに呼びかけられる。ただ官民共同で始まった周遊、滞在型観光プロジェクト以外に、協力・協賛金参加を除けば目立った動きがない。熱気、需要の不足を嘆くだけでは前へは進まない。当初から無関心の姿勢なら仕方ないが、きっかけを探しているなら、小さなことでも実践すべきではないか。県とのアクセスがいい国際的催事はそうありはしない。
われわれ市民はどうか。万博は国内外の異なる世界を一会場で感じ取れる巨大な祭りだ。地球規模での人類の現在地を知り、今後歩む道を展望する機会でもある。前述通り今回は、頭を目いっぱい使い考える要素が少なくない。人生のベテランにも楽しさが届く予感がする。付言するなら、前回万博で味わった素直な感激を今の若年層にも体験してもらいたい。障壁もあるだろうが、周囲はそんな機会をつくってあげてほしい。
人生で出合うことが少ない万博は、一度逃せば手に入らぬ限定品に似ている。限定好きな関西人なら祭りに参加しない手はない。