「君だって写したくなるに決まっている、…
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「君だって写したくなるに決まっている、そうに決まっている」。京都の美術工房「便利堂」が出版した「高松塚古墳壁画撮影物語」によると、昭和47年3月22日に初めて壁画を撮った写真技師大八木威男さんは、網干善教関西大名誉教授から、そう言って撮影を促された。
大八木さんは壁画を見て言葉の意味が初めて分かった。「あまりにも美しく、あざやかな影像に、しばらく息をのむ思いで黙って見ているだけだった」と振り返る。
が、狭い石室の中での撮影は困難を極めた。ピントガラスをのぞきこむこともできず、手鏡を横からあててピントを合わせた。
苦労の末、撮影されたうちの1枚が「飛鳥美人」で知られる西壁女子群像の写真だ。数日後、新聞紙面にカラーで掲載され大ブームを起こす。
これにより国民の考古学への関心が一気に高まった。この写真がその後の文化財保存に果たした役割は大きい。
県立橿原考古学研究所付属博物館で開催中の高松塚壁画発見50周年記念展では、撮影の様子を再現した模型も展示。文化財保存の歴史を変えた撮影の苦労がしのばれる。 (法)