思春期に多い『起立性調節障害』 - 不登校に向き合うvol.7
思春期の子どもに起こる病気の一つに「起立性調節障害」があります。「朝起きられない」「ふらふらする」「頭痛がある」「立ちくらみがある」などの症状が見られます。不登校児童生徒の中には、この症状が原因で学校に行けないという状態が続いている場合もあります。
奈良県総合医療センターで起立性調節障害を専門とされる小児科医長の西川宏樹先生に、症状や治療方法、対応などについて聞きました。
奈良県総合医療センター小児科医長の西川宏樹先生
起立性調節障害は気持ちの問題ではなく体の病気
――起立性調節障害とはどんな病気ですか
起立性調節障害(以下OD)は、思春期の子ども、特に小学校高学年から中学生に起こる症状です。主に「朝起きられない」「だるい」「立ちくらみ(意識障害)」「頭痛」「腹痛」のような症状が起床時から午前中まで持続するのが特徴です。症状の強弱はありますが、中学生の4人に1人は症状があると言われていて、めずらしい病気ではありません。
――症状だけを見ると病気のように思いませんが
そこがこの病気の厄介なところです。親や先生から「怠けている」「やる気を出せばできる」と思われることがありますが、ODは「学校に行きたくても体がしんどくて行けない」状態です。決してさぼろうとしているのではないことを理解してください。
――病気のメカニズムを教えてください
思春期は体が子どもから大人に変化する時期ですが、ODはその成長に自律神経の成長が追いつかずに起こります。
寝た状態から立ち上がると、体内の血液が上半身から下半身に移動し血圧が下がります。健康な人は血圧が下がると体のセンサーが反応して自律神経を調節して全身に血流を流して回復します。しかし、ODはこの自律神経の調節がうまくいかず血流が回復しにくいため、立ちくらみやだるいなどの症状が起こります。
――どのように診断しますか
主に小児科で相談できます。診断方法としては、新起立試験を行うところが多いです。10分間ベッドに寝てじっとして、血圧・心拍を測定、起立後の血圧低下からの回復時間や血圧・心拍を測定して判断します。
当センターでは、奈良県で唯一、FINAPRES法を採用しています。連続して血圧測定ができ、自動ティルトテーブルで自分の力で起き上がる必要がないので立ちくらみによる転倒にも対応できます。指先に計測器具がついているので、安定した測定が可能です。
FINAPRES法による起立性調節障害の診断機器
寝た状態から体を起こして血圧や心拍を計測する様子
――治療法はありますか
生活指導と環境調整が基本で、症状によっては薬などによる対症療法を行います。自律神経が成長すれば、症状は治まっていきます。基本は、治すというよりも、体の成長と上手に付き合って行きましょう。
実は、水分をしっかり摂ることも大切です。血液を増やすことにもつながります。1日2リットル前後を目安に飲んでください。同時に塩分も多めにとると良いでしょう。いつもの食事に3グラムほど多めにとってください。
――体が成長すれば必ず治りますか
“ODは体の病気”と言いましたが、心身症の一つととらえることもできます。心身症は“こころ”と“からだ”両方の不調があって、互いに作用しあって増悪する疾患です。
ODは自律神経の不調ですが、不安やストレスなどの心理社会的因子が誘因となっているかもしれません。また、症状が持続することで強く不安や抗うつ感を感じ、それにより身体症状が増悪する場合もあります。
体調不良から学校を休むことが増えれば、また新しいストレスが起こり、悪循環となって、さらに身体症状が悪くなる場合もあります。
午前中に強い症状がある場合は、午後から登校しやすいような環境づくりができるよう、担任の先生などと話し合うことも大切でしょう。子どもの心の成長にもしっかりと寄り添ってあげてください。
※ODは小児科で相談が可能です。まずは、かかりつけの小児科の先生に相談してください。より詳しい相談が必要な場合、かかりつけ医より奈良県総合医療センターを紹介してもらいましょう。かかりつけ医の紹介状がない場合は、診療費とは別に「初診時選定療養費」が必要となります。
地方独立行政法人 奈良県立病院機構
奈良県総合医療センター
奈良市七条西町2丁目897-5