ある本で紹介されていた樋口清之さん(故…
ある本で紹介されていた樋口清之さん(故人)の短論文がとても気になり、コピーを取り寄せた。桜井市出身で、日本考古学の黎明期を支えた一人だ。
論文タイトルは「日本古典の信憑(しんぴょう)性―神武天皇紀と考古学」。1965年5月に樋口さんが行った講演をまとめたものだ。
「戦後、日本古典の信憑性はすっかり地に落ち」た。だが『日本書紀』や『古事記』などはでたらめばかり書いてあるのか。樋口さんは考古学の立場からの再検討を試みた。
興味深い言及がいくつもある。約1万年前、奈良盆地は海で「大和湾」だった。海水が引き、淡水の「大和湖」になり、それが引いて盆地になった。
だから古い遺跡ほど標高の高い所にある。神武天皇紀に出てくる「異族」の地名は全て標高70メートル以上にあり、関係するとみられる遺跡からは縄文時代の土器が出土する。
これが正しいかどうかや、現在の学問的水準は知らない。だが、太古から現代までの日本列島史の実像に迫り、総体的に考えるためにも、日本古典と考古学を突き合わせるという樋口さんの方法は大切だと思う。(北)