県境を越えて大阪へ。県内で上映予定のな…
県境を越えて大阪へ。県内で上映予定のない映画を観るためで、新型コロナ禍の約3年は控えていた。
2本をはしごした。ロウ・イエ監督「シャドウプレイ【完全版】」は、急激に発展する中国経済、社会変化の中で肥大化する人間の欲望と罪を、時代を問わぬ男女の愛憎と正義を絡めて描く。
横山翔一監督「グッドバイ、バッドマガジンズ」は、東京五輪開催の影響などで急速に姿を消した「エロ雑誌」のたそがれを活写。語られざる業界の内情を知るとともに、さまざまな文化がこうして消滅するのだと感じた。
いずれも実際の社会情勢や実話が下敷き。迫真性はもとより時流に踊り、ほんろうされる人々の悲哀が、同時期を生きた者にはほろ苦く響いた。
帰路、改めて小劇場系作品に触れる機会に乏しい県内の現状を憂えた。県都に常設館のない状況では高望みなのは分かった上で。
大阪は遠くないのではとの声も聞こえる。だが県境を越えられず、見逃して悔しい思いもした3年を振り返ると、歴史文化の価値を知る人の多い奈良にも同様の劇場があればとまた考えてしまう。(智)