【新春随想】奈良芸術短期大学特任教授 前園 実知雄 人々の明るさ優しさ
晩秋の11月に1週間余りインドを旅して来ましたが、コロナ禍のため計画から4年遅れの旅になってしまいました。目的は45年間の遊行の旅を続けた仏陀が最後にたどった道を訪ねることでした。インド東北部のブッダガヤで悟りを開いた彼の残した遺跡は、没後200年にアショカ王によって各地に建てられた記念柱によって今も知ることができます。私は彼が入滅した80歳までにたどりたいと望んでいましたが、かろうじてその夢はかないました。
仏教に関する博士号を持つインド人男性との二人旅でしたが、最も訪ねたかったチュンダという鍛冶屋の村にもたどりつくことができました。仏陀はここでチュンダの振る舞ってくれたキノコ料理がもとで亡くなったわけですが、その時の仏陀の言葉が『大般涅槃経』(だいはつねはんきょう)の中に残されています。その言葉は「苦行の後でスジャータから頂いた乳粥と、このキノコ料理が一生の中で最もうれしいものだった」と言うものでした。
各地を訪ねて多くの人に出会いましたが、みんな優しい人たちでした。人口は中国を抜いて世界一になり、GDPは数年後には日本を抜くだろうと言われているインドの発展の一部を見ることもできましたが、田舎で貧しく暮らす多くの人たちの、たくましく生きる姿も目にすることができました。
私が初めてインドを訪ねてから半世紀を越えました。その後東南アジアの各地を旅して感じることは、そこで生きる人々の明るさと優しさです。海外ニュースで伝えられる政治的な軋轢(あつれき)などが目立ちますが、今回もその彼らの温かい思いがいっそう強くなる旅となりました。