音羽山観音寺 後藤住職の花だより - 僧侶に分かる話編
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話はさかのぼり、大みそかの日。住職と手伝いに来ていた後輩との間で「それはヘンザン?」「いいえジキトツ」という会話が…。僧侶ならばすぐに分かる言葉らしいですが、いったい何を話していたのでしょうか。春になってしまいましたが、その時のことを聞いてみました。
宗派による違い 僧の衣のあり方
「それはヘンザン(偏衫)?=セパレーツ?」「いいえジキトツ(直綴)=ワンピース」ということらしいのです。実は融通念仏宗では直綴といわず、同じ形の法衣を衣(ころも)と呼びます。真言宗の後輩なので「直綴」と伝えたそうです。
住職の高野山尼僧学院の時代は、グレーの偏衫(へんざん)、下は白衣の上から着る裙(くん)のセパレーツ。裙のことを腰衣(こしごろも)ともいうそうです。そしてグレーの如法衣(にょほうえ)を身につけてました。
融通念仏宗は、黒の衣に黒の大五条(おおごじょう=袈裟の種類)で修業し、僧侶の資格を得ると香衣(こうえ=黄色)にモクラン色または茶色の如法衣になるそうです。衣は偏衫と裙を縫い合わせた形で、形は真言宗の直綴と同じになります。住職が大みそかに着用していたのは古代紫の衣と如法衣でした。大般若(4月17日)の行事は古代紫の衣に七条袈裟を着用するそうです。
「お勤めに着ていくのは改良服、改良衣(かいりょうえ)とも言うの。常に着る衣で輪袈裟(わげさ)または折五条(おりごじょう)を付けて月参りのお家に伺うのよ」
本堂前の住職等身大のパネルは改良服に折五条を付けています。
「折五条は生地も良くて値段も高いのよー。ただね。すそが輪になっていて、車のサイドブレーキによく引っかかるの。ブチッて切れたとき泣きそうになったわ」と話します。
折五条の輪の部分。ここがちぎれやすい。輪袈裟も種類がある
住職は衣装持ち 手入れは専門へ
住職が正式な法要に呼ばれた時は、衣、袴(はかま)、七条袈裟、燕尾(えんび=帽子)、修多羅(しゅたら=飾りひも)、中啓(ちゅうけい=閉じない扇子のようなもの)、挿鞋(そうかい=木靴)、水晶の数珠を身につけます。袈裟も燕尾も金糸銀糸で彩られたお揃いの布のりっぱなものです。
「水晶、本物よ~」とても品のある数珠
修多羅です。七条袈裟しか付けられないようになっている
燕尾は袈裟とお揃いの布で作ったとか
これが中啓。これも持ち物の指定を受けることも
また本山から呼ばれる時、衣の指定がある場合は、その通りにしないといけません。行事にふさわしい物を着用しているのです。
衣の上から羽織る如法衣、大五条袈裟、七条袈裟、すべてに共通しているのは、初期仏教の糞掃衣(ふんぞうえ)が基本となり、田の字状に縫い合わせているのです。
「これが真言宗の時から持っている直綴。衣と同じ形ね。衣は先輩方から譲られることたまにあるけど、袈裟はその寺が継いでいくのよ。輪袈裟は信者に贈る場合があるわ。夏用の七条袈裟を大念仏寺の師匠からいただいたけど、もったいなくて使えてないの」と言いながら、防虫用丁子(ちょうじ)で染められた布で袈裟を包んでいきます。
修理、製造、クリーニングは1つの専門店が請け負うそうです。
「1回結構かかるかしら。まとめて出さないと大変だから、穴の空いた如法衣とか、溜めているの」
桐ダンスいっぱいに詰められた袈裟、そのタンスの上にも衣装箱、ハンガーラックにも衣がかかっていました。とても衣装持ちだったのですね。
音羽山観音寺
山の中にある尼寺。桜井市南音羽
JR・近鉄桜井駅下車、桜井市コミュニティバス談山神社行、下居下車、約2km。火曜日閉門。
17日の御縁日が火曜日の時は開門、翌日閉門