十津川不明女性の捜索続く - 家族ら来日、協力や情報を募集
巡礼体験を通して生き方を見つめ、平和を祈った一人のアメリカ人女性(60)が今月10日、奈良県十津川村の熊野古道小辺路(こへち)で姿を消した。五條署は山岳遭難と事件に巻き込まれた可能性の両面から捜索活動を継続。民間の山岳プロや米国ボランティアら捜索の輪が広がっているが、20日になるが今も手がかりは一つもない。来日した家族は情報や協力を求めている。
台湾生まれのアメリカ人、ウー・ムラッド・パトリシアさん(60)は2020年、エンジニアとして勤務した米国企業を定年退職。21年と22年にスペインの巡礼路で世界遺産のサンティアゴ・デ・コンポステーラを歩き、今年3月5日、四国遍路を目的に来日した。
22年のサンティアゴ・デ・コンポステーラではNHKのテレビ番組でインタビューに応じ、「今までと違った人生経験ができる」と異文化や多様な人々と交流する魅力を語り、巡礼路で親しくなったウクライナ人の友を思い「彼らの苦しみを感じ、彼らのために祈り歩く」と胸中を明かしていた。
夫のカークさん(60)は16日、十津川に来村し、パトリシアさんが宿泊を予定していた民宿を拠点に捜索活動を続けている。依頼した民間の山岳プロ集団「マウンテンワークス」(本社・長野県)のほか本国メディアなどを通して米国からのボランティア21人、村内ボランティアらが協力。滑落事故も想定して沢などを歩いたり、周辺で聞き込みをしたりして探し続けている。
元同僚で来月には結婚33周年を迎えるカークさんは、「妻は私の人生で一番大切な存在。彼女がいない生き方は考えられない」と捜索に全力を注ぐ。パトリシアさんとは日本時間8日午前のビデオ通話が最後。「4日かけて熊野古道を歩く」と話していたという。カークさんが本国で行方不明を知った14日には、電話はもうつながらなかった。
パトリシアさんは四国遍路の途中で熊野古道を知り、四国霊場24〜88番を歩き終えて和歌山県高野町に入った。十津川村の次の宿所もすでに予約して計画的に臨み、16日には友人と合流して四国霊場1〜23番を巡る予定だった。
長女は本国に残り、二女と長男がカークさんとともに村に滞在。捜索の結果は毎日報告し合い、翌日の動きを確認。捜索箇所を地図に落とし込むなど徹底的に挑んでいる。二女のマーフィーさん(27)は「母は意思の強い女性。生きるために戦っているはずだ」と地図を見つめた。
家族が村内で公開捜索のチラシをカラーコピーしていると通りすがった旅人が涙ぐみながら印刷代を差し出すなど、「日本人の優しさと心ある協力に感謝しています」とカークさん。捜索ボランティアは引き続き電子メール([email protected])で募っている。
県警は11〜26日に延べ322人を投じた。捜索活動は当面継続する。情報提供は五條署、電話0747(23)0110。