「ながらスマホ」運転 「一瞬」が重大事故に - 編集委員 辻 恵介
少し古いニュースだが、2月28日付12面で、車や自転車の運転中に携帯電話などを使用する「ながら運転」の死亡・重傷事故が、2024年に全国で164件あったことが報じられた。警察庁のまとめで、前年比16件増、過去最悪の数字という。車は136件(14件増)、自転車は28件(2件増)で、いずれも統計が残る07年以降最多で、2年連続の更新という。
近年増加傾向にある、ながら運転だが、「通話目的」よりも、運転中に画面を注視する「画像目的」が大半だそうだ。注意力が散漫になり、事故につながるリスクを自らが招く、愚かな行動と言えよう。
万一事故を起こせば、人命にかかわりかねない。だからこそ、慎重に車を運転する自覚と責任感が求められる。
車は136件のうち32件が死亡事故。過去5年間で、車のながら運転による死亡事故の割合は、約3・7倍に上ることも分かった。
「交通安全」に関する「政府広報オンライン」というHPによれば、時速40キロで走行する自動車は1秒間に約11メートル進み、60キロなら約17メートル進むという。「『ほんの一瞬だから』というのは大きな間違い。その一瞬の間に重大事故を招くことになる」と警告している。
電車の中、また街頭では歩きながらでもスマホ画面に見入っている人を多く見かける。こうした日常生活の習慣のせいで、車の中でも無意識のうちに画面を見てしまっている―という構図があるのではないか。便利な道具も、依存し過ぎると、悲劇につながることもあることを忘れないでほしい。
以前、「デジタルデトックス」という言葉が注目された。「スマホなどのデジタル機器からあえて距離を置く」という自主的な行動を指す。「寝室にスマホを持ち込まない」「食卓に置かない」など、自分なりのルールを作り、実践することが大事なようだ。
これらを実践した結果、「時間を有効活用できた」「仕事や勉強に集中できた」「睡眠の質が高まった」といった声が多く寄せられたという。「デジタル機器に『使われない』という強い意志」が大切だという、一つの証明ではないだろうか。
冒頭の「ながら運転」のようにスマホの使い方を誤ると、人生を暗転させる事態を招くことを肝に銘じておくべきだろう。
折しも「春の交通安全運動」(15日まで)の真っ最中。「重点項目」の中には、「ながら運転の根絶」も掲げられている。悲惨な事故、悲劇を少しでもなくしたい。