金曜時評

岸田首相の退陣表明 堀井氏のけじめは - 論説委員 甘利 治夫

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 「身を退くことでけじめをつける」と、自民党総裁の岸田文雄首相が、9月の党総裁選に出馬しない考えを表明した。党派閥の政治資金規正法違反事件を受け、トップとして責任を取るという。

 

 これにより、総裁選に向け一気に動き始め、早くも出馬の意向を示す者もあり、日ごとにその激しさを増すことになろう。

 

 最近の各種世論調査でも、内閣及び党支持率が20%台と低迷し続け、4月の衆院補選で全敗し、都知事選と同時に行われた都議補選でも、8選挙区に立てた候補者のうち当選は2人だった。他の地方選挙でも、推薦した現職首長が次々落選するなど、自民党への有権者の厳しい審判が続いていた。解散総選挙となれば、「政権交代」もあり得るとの予測もされるほど厳しい状況でもあった。裏金問題がいかに大きいかが分かる。

 

 岸田首相は、次期総裁選に再出馬も考えていただろうが、国民の怒りの大きさから、退陣以外に道はなかった。党内からも退陣論が出始めただけに、発表のタイミングを見ていたといえそうだ。

 

 もちろん擁護論もある。政策も道半ばということもある。外交・安保や経済対策など目立たなかったが、それなりの実績もある。しかしながら、世論や党内の情勢から、続投は困難と判断した。

 

 似たようなことが近県でもある。パワハラ問題で2人の職員が亡くなり、百条委員会を設置された兵庫県知事だ。ナンバー2の副知事が退任したほか幹部職員が体調不良で休暇を取るなど、県政がマヒ状態にあっても、「辞職はせず、信頼回復のために県政を前に進めていく」と繰り返す。県民や職員から距離を置かれ、退陣を迫られていてもだ。トップにある者の出処進退の決断が、いかに大切かが分かる。

 

 岸田首相の判断はよしとしたいが、それなら裏金問題の当事者はどうなのかと問いたい。

 

 その一人である県選出の堀井巌参院議員は、来年夏の参院選候補者として、党本部から第1次公認候補として発表された。堀井氏は一部の党員、支持者らに個別で謝罪しているというが、「一方的に話すだけで、聞かされるだけ」というのが実態だ。何度も指摘してきたように、ことの経緯など真相をなぜ会見で語ることをしないのか。

 

 総裁が変われば、風向きも変わると思っているとしたら大間違いだ。トップがけじめをつけたなら、当事者はどうけじめをつけるのかだ。

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