春日大社の参道南側に広がる飛火野に、「…
春日大社の参道南側に広がる飛火野に、「雪消(ゆきげ)の沢」と呼ばれる小さな池がある。古歌にも詠まれた若菜摘みの名所だが、能「野守(のもり)」に登場する「野守の鏡」も飛火野にあった丸い池といわれる。
野守の姿を映す池から地獄の鬼人が持つ鏡まで、物語が縦横に展開する奈良ゆかりの演目だ。鬼の面をつけたシテ(主役)の姿は何とも言えず恐ろしい。
見どころは11日の本紙に掲載された連載「大和路『能』舞台を訪ねて」に詳しいが、芝原の小さな池も、物語を知れば違って見える。
飛火野でひときわ目立つクスノキの巨木は、1908(明治41)年に行われた陸軍大演習の宴会で、明治天皇の玉座跡に植えられた。
春日大社の参道に並ぶ石灯籠にはさまざまな種類やいわれがあり、寄進者の思いが込められている。「春日の鹿と灯籠を3日で数えると長者になる」とか。
大和路は紅葉が盛りを迎え、秋の観光シーズン真っ最中。よく知られた観光名所にも、いわれを知って興味の深まるエピソードがたくさんある。一味違う奈良の魅力を味わってみてはどうだろう。(増)