日本酒発祥地の酒造 蔵の個性を特長に - 奈良経済をつかむ(23)
奈良は日本清酒発祥の地として知られる。奈良市郊外にある正暦寺が透き通った清酒・菩提泉を製造したのが最初である。菩提泉は、織田信長が安土城で徳川家康を接待する際に選ぶなど天下の美酒として数多くの戦国大名にも愛飲されていた。
奈良の酒蔵は戦後、下請けとして日本酒の産地である伏見や灘などの酒造メーカーに桶売りするウエートが高かった。その後、食習慣や嗜好(しこう)の変化で日本酒の需要が減退する中で、下請けから脱却するためにそれぞれの酒蔵が味や香りを追求しブランド化を進めてきた。その間に後継者難で廃業する蔵や業績悪化で倒産する蔵もあり、酒蔵は30年前より半減し27蔵となっている。
奈良県酒造組合に加盟する酒蔵がそれぞれの銘柄を「奈良酒」として販売している。ブランド化が遅かったことが奏功し、ほかの産地に比べて蔵ごとに味や香りの独自性が高く、近年注目を浴びている。「観光客が地域に密着した各蔵を見学する酒蔵ツーリズムによって奈良酒をさらに普及促進していきたい」(北岡篤・組合会長)。
今後は、「奈良酒」として地理的表示(GI)保護制度や地域団体商標の登録を目指す。その他にも幻の酒米である「露葉風(つゆはかぜ)」などを交配した県独自米を使用した酒造りに取り組んでおり、来春には新酒が登場する。
日本酒の大産地である灘や伏見と比べて蔵ごとの個性が特長で、歴史やストーリーは豊富にそろっている。これからも県や酒造組合、酒蔵が三位一体となり、「はじまりと、これからの酒」としてPR活動を積極的に行っていくことが重要である。(帝国データバンク調査課 碓井 健史)