金曜時評

JR畝傍駅舎の保全活用 価値観が問われる - 論説委員 増山 和樹

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 1940(昭和15)年に建てられ、貴賓室も備えたJR畝傍駅舎が、解体の危機に直面している。JR西日本は地元の橿原市に駅舎の無償譲渡を提案したが、市は民間活用が見込めないとして断念、市内外の有志が駅舎の保全活用を求めて運動を展開している。

 

 JRの提案の背景には、利用客数の低迷と駅舎の老朽化がある。改札などの駅舎機能は残るため、市が建物を活用すれば、建て替えや維持管理の経費を節約できる。市は当初前向きで、民間事業者から活用プランを募集、カフェや宿泊施設などの提案があった。

 

 ただ、その後のヒアリングでは駅前の市有地との一体利用や市の想定する賃料との開きが明らかとなり、民間事業者による駅舎の活用を断念、今年3月にJR西日本と新たに結んだ確認書は、コンパクトな駅舎への建て替えを前提としている。市は現駅舎の歴史やデザイン性を継承できる駅舎整備を来年3月までにJRに提案、JRは市の提案について「検討に協力する」が、2025年3月までに合意に至らない場合は事実上JRの“フリーハンド”となる。

 

 現在の駅舎への建て替えは、紀元2600年記念事業の一環だった。貴賓室は前室と主室に分かれ、神武天皇陵などを訪れた皇族が利用、昭和前期の県史を物語る貴重な歴史遺産といえるだろう。

 

 市の試算によると、無償譲渡を受けた場合、耐震補強などの初期投資に約2億円、維持管理に年間約1千万円かかるという。市は維持管理費を賃料でまかなうことを前提としており、条件をクリアできる事業者がなかったことが断念につながった。

 

 問われているのは市の価値観だ。無償譲渡の受け入れ断念は、判断のバランスを歴史遺産の継承より経費削減に置いたことを意味する。市は財政事情から公共施設の延べ床面積を40年間で20%減らすことを目標としているが、歴史遺産である畝傍駅舎と一般の公共施設を同等に語ることはできない。民間では難しいからこそ市の出番ではないか。収支に縛られ、無二の歴史遺産が姿を消すことがあってよいのだろうか。同じ桜井線の京終駅や柳本駅は地元市が駅舎の無償譲渡を受けて活用している。

 

 JR畝傍駅舎の保全活用を進める会によると、耐震補強の手法など、経費圧縮の手立てはさまざま考えられるという。畝傍駅は江戸時代の町並みが残る今井町にも近い。他の保全駅舎を含めた広域的な活用も視野に、市は畝傍駅舎を後世に残す道を探ってほしい。

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