2シーズン目のJ奈良クラブに期待 「とてもいいサッカーをしている」 - 野々村芳和Jリーグチェアマンに聞く
Jリーグチェアマン 野々村芳和氏に聞く
【プロフィール】1972年、静岡県清水市出身。慶應義塾大学卒業後、選手としてジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド千葉)とコンサドーレ札幌(現北海道コンサドーレ札幌)で活躍。
北海道フットボールクラブ(現コンサドーレ)代表取締役社長などを経て2022年3月から現職。
日本サッカーの未来を拓く 次の30年へ
昨年、1993年の開幕から30周年の節目を迎えたJリーグ。2026年から欧州と同じ8月開幕、5月閉幕の新しいシーズン制への移行を決定し、選手のパフォーマンス向上や海外移籍市場への本格参入を目指す。30年後のJリーグを展望する野々村芳和チェアマンに聞いた。
シーズン移行でパフォーマンス向上
ーシーズン移行の目的は?
野々村 日本の夏は猛暑で湿度も高い。現行のシーズンだと6月頃から気温上昇と共に選手のパフォーマンスが低下する。8月に開幕することで気温は下がっていきシーズン中盤にかけて選手のパフォーマンスは上げていくことができる。選手はシーズン開始から5、6カ月でパフォーマンスのピークを迎えるが現行では最も暑い時期にあたるので高いパフォーマンスを発揮できない。
ビジネス面でも移籍金獲得に影響を与えている。欧州の移籍は主に開幕前の6、7月でその時期の移籍金総額は約1兆300億円で冬の移籍と合わせると1兆2500億円になる。その市場に参入できれば移籍金の獲得も増える。一方、Jリーグ全クラブの海外移籍金総額は約20億円しか得られていない。日本代表はFIFAランキングで20位以内に入り海外では日本人選手の評価は高まっている。例えば、Jリーグから移籍金1億円で欧州中堅リーグへ移籍した選手が1年後に20億円で欧州トップリーグへ移籍すると、その中堅リーグのクラブはその差額分の利益を得ることができる。海外移籍の際の収益拡大には欧州移籍マーケットとシーズンをそろえる必要がある。
―雪国のクラブが不利になりませんか?
野々村 現行も12月上旬に閉幕し2月下旬から開幕する。シーズン移行後は降雪期間をウィンターブレーク(12月3週目頃から2月3週目頃まで)を設けるので現行のオフ期間と変わらない。私は北海道のクラブに所属していたが12月から3月までの北海道は降雪のため屋外でプレーできる場所がほとんどない。Jリーグはいろいろな人の協力を仰ぎながら、冬でも夏でも年間を通してスポーツがプレーでき、観客が楽しめるような施設整備に支援を行っていく。これは世界との差を埋めるためにも必要なことだ。
3月6日開幕ルヴァンカップにJ2 J3も参戦
―今年からルヴァンカップにJ2とJ3のクラブが参戦します
野々村 昨年までJ1中心の大会で参加チームの地域だけが関心を寄せていた。J1からJ3まで計60チームが参加することで60地域の人に興味を持ってもらえる。大きなクラブの年間売上は100億円規模だが小さなクラブは数億円止まり。そろそろ大きなクラブが小さなクラブを助ける方策を考える時だ。今回は大きなクラブが小さなクラブのホームで試合を行う。ふだん観客数2、3千人規模の小さなクラブは大きなクラブを迎えることで注目が集まり5千人から1万人規模の運営を行うことになる。この経験はクラブ経営の成長につながるし売上にも貢献する。勝ち進めばさらに収益を得ることが可能でクラブのモチベーションにもなる。また、試合面ではトーナメント方式なので勝敗を決めるPK戦があるのも魅力だ。
―元日の能登半島地震で大きな被害がありました。Jリーグとしての支援策は?
野々村 義援金1000万円を日本赤十字社へ寄付した。また「JリーグTEAM AS ONE」として義援金募金を募っている(4月末まで)。各クラブサポーターも被災地域支援に動いてくれている。これまでも災害被災地に対して全国のクラブやサポーターが寄付を募るなどの活動を行ってきた。サッカーを愛する人たちがお互いに支え合う文化はすばらしく誇りに思う。
奈良クラブJ昇格初年度5位「とてもいいサッカーをしている」
―奈良クラブへの評価は?
野々村 J3昇格初年度で5位はすばらしい成績だ。とてもいいサッカーをしている。いいサッカーといい仕組みがあったからこそ上位につけた。フリアン監督はスペインらしいサッカーを実践している。ボールを大事に保持し相手に渡さない。ボールポゼッション率はJ3中3位だ。ゆっくりしたサッカーだが特徴があり面白い。今季も奈良クラブらしいサッカーを見せてくれると期待している。
―一方、集客や財政、スタジアムなど課題があります
野々村 いつまでにどこを目指すか。いい作品作りにはサッカーの質、スタジアム、サポーターの熱量の3つが必要。J1に上がるには一定の売上が必要で、その売上を獲得するにはいかにいい作品を作れるかだ。中でもスタジアムは重要な要素。サポーターの熱量が伝わるスタジアムで試合を行うと選手は伸びる。上を目指すならいい作品を作っていかなければならない。
Jリーグは全60クラブが地域で圧倒的存在感を出せるよう投資を行っている。奈良クラブにはこれから様々な課題を乗り越えていってほしい。
―次の30年に向けての目標は?
野々村 最大のテーマは2つ。1つは60クラブがそれぞれの地域で輝くこと。2つめは世界と戦えるトップレベルのクラブをつくること。各クラブのレベルアップはリーグ全体の価値を上げる。Jリーグ開幕30年。次に目指すのは世界で勝負できるクラブや人材をつくること。人材は選手だけでなくスタッフも含めてだ。それにふさわしい環境を提供していく。30年前、Jリーグとイングランドプレミアリーグの売上規模はほぼ同じだったが今では大きな差がついた。30年後には世界と戦うトップレベルのリーグにする。
JリーグYBCルヴァンカップ
日時: 2024年 4月24日水 19:00 ロートフィールド奈良
対戦カード: 奈良クラブ VS サンフレッチェ広島(J1)
2024年2月18日付奈良新聞に掲載