【ことなら。2025春】ぶらり散策 元興寺とならまち 路地にひそむ不思議に触れて
昭和ノスタルジー
近鉄奈良駅の南南東約1キロに位置する元興寺(奈良市中院町)。同寺を中心に四方数百メートルにわたり伝統的建造物が残る同地区は「ならまち」と呼ばれ、奈良でも有数の観光名所となっている。老舗の和菓子店や料理店などと軒を連ねるようにして、古民家を改装したカフェやハンドメイド作家らが経営する雑貨店なども並ぶ。新旧の店舗、地域住民の暮らしが相まって、この町は色づき、輝きを放っている。
1998年に奈良市の彫刻のあるまちづくり事業で設置された「むこう側の見えるいし」(同市御所馬場町)。毎日多くの外国人観光客が前を通り過ぎる
奈良町情報館ー散策のお供にリーフレット
ならまちの中心に位置する「奈良町情報館」(同市中院町)では、飲食店・物販店・観光施設など約150カ所の位置を記した「ならまちマップ」付きリーフレット(外国人には英語版)を無料提供している。25年版は3月に発行。道案内もしてくれる。
木曜休館、午前10時~午後5時
電話0742(26)8610
リーフレットを手に持ち「ならまち散策にどうぞ」と話す奈良町情報館の妻木珠英さん。リーフレットには営業時間や休業日なども記されている(約90カ所)
喫茶ツバキー懐かしの味にホッ!
ならまちの最西部に位置する南北の生活道沿いに昨年11月、昭和をイメージしたレトロな雰囲気と懐かしい味が楽しめる「喫茶ツバキ」(同市椿井町)が誕生した。メロンクリームソーダ、ホットケーキ、ナポリタン…。メニューには昭和の子どもたちを魅了した料理名が並ぶ。
老舗呉服店「かぎろひ屋」を営む柴田衣料店が、呉服店の一部を改装して造った。社長の柴田義太郎さん(60)は「若い人だけでなく年配の人も気軽に入れて、ホッとできるような場所が地域に必要だった」と語る。
また同店は買い物帰りの地域住民が多く通る場所でもある。柴田さんは、同店を食事をするだけの場所ではないとし「本を読んだり、仕事をしたりするのにも適している」と勧める。ソファ席の台輪部分には電源コンセントが設置されおり、自由に使える。ならまちで「一人の時間をゆっくり楽しめる店」―。懐かしいだけでなく新しくもある。
弱炭酸の懐かしい味がする「喫茶ツバキ」のメロンクリームソーダ
ちょい飲み茶屋鹿ドキ!ー「鹿」つながりの個性的メニュー
「鹿が出た!」―。観光客だけでなく鹿もトキドキ「ならまち」を歩く。鹿登場のサプライズもこの町の魅力の一つだ。一方で、「外国人観光客は『ならまち』一帯を散策するが、日本人観光客はネットで調べた目的地以外を歩こうとしなくなった」という声も地域から挙がる。たこ焼きと芋焼酎の店「ちょい飲み茶屋 鹿ドキ!」の店主・村田洋一さん(57)は「個性を発揮しないと日本人観光客は店に足を運んでもくれない」と知恵を絞る。脱サラし、小規模商業施設「ならまち工房Ⅲ」(同市公納堂町)の一角で今年3月に開業した。
奈良と「鹿」つながりの鹿児島県産焼酎をメインに、昭和B級グルメの王様「たこ焼き」とタコつながりの「タコさんウインナー」などで勝負する。「なら燈花会」(8月5~14日午後7時~同9時半開催)は最高のアピールの機会。さらに個性を磨くつもりだ。
※「なら燈花会」=奈良公園一帯を円筒形の容器に入った約1万5千個のろうそくが照らす奈良の夏の風物詩。1999年に始まり、昨年は期間中に延べ約73万5千人が訪れた。
ならまちには飲食店サイトや情報誌などで紹介されていない店舗も多い。「ちょい飲み茶屋 鹿ドキ!」もその一つ。店主の村田洋一さんは「イベント時にはぜひ散策し来店を」と話す
身代わり申ー厄災引き受け願いがかなう
奈良町資料館(同市西新屋町)と周辺店舗には、赤い服を着た力士が腹筋運動をしているかのような大小の丸い物体がつられている。実はこれ、同資料館が販売する「身代わり申(ざる)」と呼ばれるお守りの一種。持ち主の災難を代わりに引き受けてくれ、背中に願い事を書いて祈れば、かなえてくれる(かも?)という。家内安全▽病息災▽交通安全▽病気平癒▽疫病退散▽商売繁盛▽学業成就▽試験合格▽恋愛成就▽安産祈願…。ご利益も太っ腹。
下などに家族分をつることが多い「身代わり申」。直径2センチの根付タイプもある