金曜時評

「奈良のシカ」問題 保護も管理もだが - 特別編集委員 北岡 和之

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 国際規準とされる「動物の五つの自由」という指標がある。「飢え、渇き」「不快」「痛み、負傷、病気」「恐怖・抑圧」からの自由と、「本来の行動がとれる」自由。人にも適用できそうだ。

 

 一般財団法人「奈良の鹿愛護会」が運営する鹿の保護・管理施設「鹿苑(ろくえん)」(奈良市春日野町)内にある「特別柵」に収容されている鹿の状況について、県の調査結果が公表された(7日付本紙既報)。所見は「全ての指標に抵触しており、鹿苑の特別柵内における鹿の収容環境は不適切」とした。山下真知事は発表の臨時会見で、愛護会とともに、鹿苑の管理主体である県の責任にも言及した。今後は奈良市などとも連携して短期、中・長期に分けて対応を進めていくことになる。

 

 特別柵内で鹿の「虐待」はあったか。県の判断は「虐待かどうか、どちらとも言えない」。判断の規準としたのは動物愛護管理法の第44条。山下知事は「飼養密度が著しく適正を欠いた状態で愛護動物を飼養し若しくは保管することにより衰弱させること」「自己の飼養し、又は保管する愛護動物であつて疾病にかかり、又は負傷したものの適切な保護を行わないこと」が該当するかどうかではないかと指摘した。ちなみに、同条における「愛護動物」とは「牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる」で、野生の鹿は入っていない。

 

 中・長期的対応については、県が設置している「奈良のシカ保護管理計画検討委員会」を基に、幅広い関係者で議論する場を立ち上げることも明らかにした。

 

 「奈良のシカ」が国の天然記念物に指定されたのは1957(昭和32)年9月。奈良市一円に生息するニホンジカを「地域を定めず」に指定したことから話が難しくなったと言っていい。奈良公園周辺で見かける鹿だけが「奈良のシカ」なのではない。市山間部で農作物を荒らしているのもれっきとした「奈良のシカ」。そういった鹿を収容しているのが特別柵である。

 

 「第二種特定鳥獣管理計画」というのも挙げておく。都道府県知事が策定するもので、生息数の著しい増加や生息地の範囲拡大が見られる鳥獣(第二種特定鳥獣)の管理に関する計画のこと。鳥獣保護法の改正で、保護に加えて「管理」も視野に入った。県計画では、別枠で「奈良市ニホンジカ第二種特定鳥獣管理計画」がある。

 

 全国で熊の被害も話題だ。動物の保護も管理も難しく、県が掲げる「人と鹿の共生」は道半ばだ。

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