人材確保に向けて 柔軟思考でいこう - 編集委員 松岡 智
経済関連の取材先で人手不足の言葉を聞かないことはほぼない。9月に公表された日本商工会議所の全国中小企業対象の調査では、人手不足との回答が2015年の調査開始以降最大の7割近くに達し、うち6割以上が深刻とする実態が明らかになった。県内でも正社員不足が懸念される民間の調査結果がある。先端技術なども駆使した省人・省力化の方向に進まないとすれば、安定した人手の確保は事業継続に避けて通れない。
県内企業も男女共に働きやすい職場環境の整備、多様な働き方の導入、賃金・待遇改善、スキルアップの教育制度など、求職者の関心を引く方策を講じてはいる。従来からのインターンシップや事業所見学、企業説明会などにとどまらぬ動きもある。若い層への「種まき」の意味合いも持つ中学生対象の出前授業、大学生と連携した企業紹介冊子の製作、企業や地域の特性を考慮した求職者と協働の新規事業立案と実践などは、事業者との直接的なかかわりを通して県内企業への認知度、親近感を高めてもらおうとの経済団体、自治体も参画した取り組みだった。
だが、そうした活動や企業、業界発の情報は広く現在や未来の人材に届いているだろうか。十分に拡散、浸透していないならば、手法の再検討も必要になる。最近では留学生人材も視野に、海外販路開拓・拡大のPR素材を学生につくってもらう形のインターンシップや、就業者を含む若者らがゲスト講師と一緒にこれからの働き方を考え、交流するイベントも登場している。すぐに結果につながらなくとも、こうした事業を利活用して積極的に求職者に接近し、働くことや仕事の対価として求めるものへの意識、本音の変化を探り、当初の目的を達成するやり方もある。これまで顧みなかった手法への発想の転換も、閉そく感のあるなかでは考慮されるべきことだ。
社会に誇れる技術や商品、サービスなどを提供していれば注目され、人は集まるとの考えもあろう。否定はしないが、労働の捉え方や仕事に望むものが多様化する時代には、個別対応も可能な複数の視点、引き出しを持つ柔軟性も求められる。働きやすい職場環境を示す公的認証を取得していても、求職者に価値や利点が伝わっていなければ優位性は薄れるのだ。
正解は見えない。それゆえ新たな手法にも敏感で、情報発信や人材獲得術の見直し、改善への柔らかい思考が必要なのでは。もちろんトップ自らが動く気概がなければ、現況の打破は見通せない。