甘さ控えめの粒あん 御陵餅本舗(天理市) - 地元の味(9)

奈良県天理市の国道169号線沿い、崇神天皇陵(行燈山古墳)の向かいに店を構える。大和朝廷の創始者とされる天皇だけあって古墳も全長約240メートルと巨大。その前方後円形をイメージした焼き餅「御陵餅」が人気の和菓子店だ。国道を南に下れば大神神社(桜井市三輪)で、大阪方面からの常連客も多いという。
店主の田代幸義さん(65)は約40年前にトラック運送の仕事を辞め、未経験だった和菓子の世界に飛び込んだ。体に負担がかかる力仕事に限界を感じ、和菓子を勉強して店を開こうと考えたという。知り合いの職人に作り方を学んで「御陵餅」を考案、店を開いた。
「1〜2年はお客さまからお叱りを受けながら試行錯誤の繰り返し。5年間は赤字でした」と田代さん。それでも努力のかいあって上品なあんのおいしさが口コミで広がり、午後には売り切れるほどの人気店に。「御陵さんのおかげです」と田代さんは話す。
早朝から準備して店を開け、閉店後、翌日の仕込みが終わるのは午後10時ごろ。田代さんはそれでも手仕事にこだわり、黙々と和菓子を作る。お盆や彼岸の繁忙期には、妻や孫が手伝いに来てくれるという。
御陵餅は、手で持ったら形が崩れるほど柔らかい。佐賀県産の餅米「ひよくもち」を使うことで、ちょうど良い粘りと腰にたどり着いたという。十勝産のアズキを炊いて作った自家製の粒あん入り。焼き板は銅製で、「きれいに焼ける」という。「しろ」と「よもぎ」の2種類あり、1個税込み162円。
その他、店に並ぶのは自然な甘さのおはぎ(同162円)、素朴なしょう油味のみたらし団子(5本入、同486円)など。季節に応じた限定品が並ぶこともある。
記者も御陵餅を一つ頂いた。ふわふわの餅と甘さ控えめのあんは、思わず笑顔になる幸せの味だった。
「今までと変わらず地元の人に愛される店でありたい。評価を気にし過ぎず、やるべきことをやっていく」。はにかみながら話す笑顔の奥に、一代で店を築いた強さと努力がにじんで見えた。(伊藤波子)
御陵餅本舗
天理市柳本町1536
営業時間:午前9時〜午後4時
定休:水曜(臨時休業あり)
電話:0743(66)3035