特別史跡指定の古墳から国宝の壁画を取り…
特別史跡指定の古墳から国宝の壁画を取り出すという、わが国の文化財保護史上に残る大事業だった2007年の高松塚古墳石室解体。その功労者、石工の左野勝司さんが7月に亡くなった。
左野さんは仕事に対して頑固であり、繊細な人だった。壁画が描かれた凝灰岩の石材は非常にもろく、すべてを無事に取り出せたのは左野さんの長年の経験と勘の成せる業といえる。
また優しく気遣いの人でもあった。石について素人の筆者の取材にも丁寧に答えてくれた。
「小さな新聞と思っていたが、俺の言ったことをうまく書いてくれている」。石室解体の取材中、褒めてもらったことがうれしく今も忘れられない。
左野さんは解体後も常々、壁画を守るためには石が大事だと、高松塚の石材を気に掛けていた。現在、壁画のカビなどの繁殖を防ぐために乾燥した仮設修理施設の保存室に収められているが、石材にとっては良い環境といえない。
文化庁は高松塚の壁画を保存・管理するための新しい施設を検討中。左野さんには、自らが救い出した国民の宝を天国でも見守っていてほしい。 (法)