金曜時評

「法令順守」いかに - 編集委員 辻 恵介

 「まず、正確に早く仕事をする。誰にでも公平・公正であること。これはサービスの本質にかかわることでその徹底をしていきたい。(中略)こうした一連の取り組みのため透明性の確保も進めたい」



 これは、奈良市の不動産会社「公誠」をめぐる一連の違法建築問題で、不明朗な融資に批判が集まっている南都銀行の西口広宗会長(当時は頭取)が、平成16(2004)年11月8日に語った言葉である。奈良商工会議所の第132回議員総会で、前会頭・阪本道隆南都銀行会長(当時)の後をうけ、新会頭に就任したときのあいさつでの発言で、会議所の改革に意欲を示したものだった。



 会議所の運営について西口氏は、「(1)公平、正確、スピーディーな運営(2)コンプライアンス(法令順守)の徹底(3)観光政策と商店街活性化の取り組み強化―などの方針を挙げ、強い改革を示した」と当時の記事にあった。



 冒頭のあいさつといい、改革に向けて実にいいことをおっしゃっておられる。だが、同行の今回の違法建築問題へのかかわり方を見ていると、このときの発言をどう理解したらいいのだろうか。「誰にでも公平・公正であること」と言いながら、特定の人物に肩入れした形に見えるのは、いかがなものか。今回の件で、不公平感や不快な印象を県民に与えてしまったとしたら、それだけでもサービスの質に大きく影響するのではないか。



 ましてや「コンプライアンス(法令順守)の徹底」という方針は、どこに飛んで行ってしまったのだろうか。審査がとても厳しく、高い調査能力がある銀行が、一連の不法行為に結果的に加担したように見えることに対して、どう説明するのだろうか。



 同行では、この発言の4カ月ほど前の6月に、総務部法務室を「コンプライアンス(法令等順守)室」として新設し、内部管理体制を図っていくことを打ち出している。西口氏はこうした自社の取り組みも踏まえて、会議所での改革を訴えたのだろうが、今となっては何かむなしい気もする。



 同行では同17年6月、本部組織の機構改革で総合企画部を再編し、経営管理部を新設した。このなかで、経営管理部はリスク管理、コンプライアンス、情報管理を統括し、内部管理態勢の充実を図っていく、という使命を持たせた。



 また、従来の本・支店の業務を一店ずつチェックする監査部を強化。支店長級の内部監査役を6人から12人に増員して、日常業務の適正化をより確かなものにしていくことにしていた。



 コンプライアンスを叫び、監査体制も積極的に強化していったのは、過去において今回のような事例があったから、それを今後に生かすためだったのだろうか。過去は過去として、当時の状況はどうだったのか、監査は適正であったのかなど、きちんと明らかにした方がすっきりするのではないか。



 今年の6月27日。西口会長と植野康夫頭取の就任記者会見が行われた。ここで植野氏は銀行経営の重点として三点を挙げたが、そのうちの一点は「コンプライアンスの徹底」だった。ここでも「法令順守」がうたわれている。だからこそ、今回の事態で「コンプライアンスは実際のところ、どうであったのか」―多くの県民が知りたいところであろう。



 南都銀行の歴代のトップクラスは、これまで各種団体の要職にもつき、本業とは別の形で社会に貢献している。そうした企業であるからこそ、何よりも順法精神を大事にしているはずである。そうした高潔な心を持つ企業人だからこそ、各種団体の会員も打ち出された方針や活動についていくのだろう。



 常識的に考えても、億を超える巨額の融資は支店長クラスの判断とは思えない、というのが経済関係者らの見方だ。経営のトップクラスの判断なくしては、これまで20億円ともいわれる融資総額には、どう考えても行き着かないとみられている。だからこそ、預金者でもある県民の多くが真相を知りたがっている。

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