金曜時評
活発な論戦に期待 - 編集委員 松井 重宏
今月11日、任期満了に伴う下市町長選挙が告示され、現職の東奈良男氏が無投票で再選された。18日に告示される上北山村長選挙も現職の福西力氏以外に出馬の動きがなく、このまま無風なら、無投票で選ばれた県内の市長村長は13人、39市町村の3分の1を占めることになる。47年ぶりの無投票に終わった大和高田市など3市の市長も含まれ、平成の大合併が動き出す前、平成15年当時に47市町村で9人だった状況と比べても増加傾向が顕著だ。
具体的な選挙事情は個々の市町村で異なるから一概に判断はできないし、多数の選挙に繰り返し出馬してきた諸派新人が平成18年3月に亡くなった影響もあるが、地方行財政が厳しさを増す中、首長選挙が“低迷”しているとすれば問題。候補者が政策を戦わすことで地域の課題が浮き彫りになり、投票行為を通じて住民の参政意識が育つ。そうした選挙の意義、機会が失われる。
ただ地方行政の担い手を目指す新しい人材が、全県的に減ってきているのかというと、そうではない。先月26日に投開票された葛城市長選挙では、30歳代の新人、山下和弥氏が出馬。組織力で優る現職が有利とする観測もあったが、結果は1000票以上の差をつけて山下氏が当選し、県内の市長村長選挙で相次いでいる「新旧交代」の流れをあらためて印象づけた。
また無投票に終わった市町村でも、桜井市や香芝市のように新人だけが出馬、当選するケースも。その裏でベテラン首長の引退が増えている。多選批判など、現職候補に逆風が吹く傾向は平成16年の奈良市長選挙あたりから顕在化し始め、生駒市、橿原市では30代、40代の新人が当選。落選後に前市長が在任中の不正で逮捕された生駒市や、現職逮捕で出直し選挙を余儀なくされた高取町の例は論外だが、再選出馬が濃厚とみられた現職が引退、新人同士による激戦に突入する市町村も目立つようになっている。
表向きには、取り組んできた課題が一段落したなどと説明されるが、実際は有権者が現職を敬遠する風潮を見越して再出馬を見送るのか、それとも従来の政治手法に行き詰まり、意欲を失ってしまうのか。政権を突然投げ出す首相がいる時代。最後まで任期を務めて後任に託す市長村長は責任感と良識があるが、厳しい地方行政の実態もかいま見える。
県がまとめた、県内市町村の平成19年度普通会計決算見込みによると、地方分権に伴う役割の増大もあって決算規模が膨らむ中、実質収支が赤字となった市町村が過去最高タイの7団体を記録。全国の赤字団体が23あるうち約3割を占め、県内市町村の財政がひときわ厳しさを増している。
もちろん新人、若手が市長村長になったからといって即、現状が改善されるわけではない。市長の資質を問い議会が不信任案を決議、破綻(はたん)した前奈良市政、医療行政や開発問題を巡り迷走を続ける生駒市政など。むしろ困難な時期だからこそ経験豊富な首長の頑張りが期待される場面もある。いずれにしても議会との連携、住民との対話を基礎に、市長村長には強いリーダーシップと創意が求められている。
だからこそ選挙の活性化が望まれる。私利私欲に基づく権力闘争はいうまでもなく、地域を二分するような激戦もいたずらにあおるべきでないが、候補者づくりでは政党も積極的な役割を果たす必要がある。衆院の解散、総選挙をにらみ、とってつけたような「地方重視」では国政も円滑に動かなくなる。来年は統一地方選挙の“裏年”に当たり、県内12市町村長が任期満了を迎える。市町村合併の推進も県内では「未解決の課題」だから、中山間地域も含めた全域で活発な政策論議が展開されれば良い。
併せて、無投票当選した市長村長はもとより、選挙戦を勝ち抜いた首長も、今一度、住民との対話に目と耳を傾ける姿勢を持つべき。要望を聞き、決定事項を報告するだけではなく、具体的な施策を明示して住民と議論する市町村政こそが有権者の「信」を得る。
具体的な選挙事情は個々の市町村で異なるから一概に判断はできないし、多数の選挙に繰り返し出馬してきた諸派新人が平成18年3月に亡くなった影響もあるが、地方行財政が厳しさを増す中、首長選挙が“低迷”しているとすれば問題。候補者が政策を戦わすことで地域の課題が浮き彫りになり、投票行為を通じて住民の参政意識が育つ。そうした選挙の意義、機会が失われる。
ただ地方行政の担い手を目指す新しい人材が、全県的に減ってきているのかというと、そうではない。先月26日に投開票された葛城市長選挙では、30歳代の新人、山下和弥氏が出馬。組織力で優る現職が有利とする観測もあったが、結果は1000票以上の差をつけて山下氏が当選し、県内の市長村長選挙で相次いでいる「新旧交代」の流れをあらためて印象づけた。
また無投票に終わった市町村でも、桜井市や香芝市のように新人だけが出馬、当選するケースも。その裏でベテラン首長の引退が増えている。多選批判など、現職候補に逆風が吹く傾向は平成16年の奈良市長選挙あたりから顕在化し始め、生駒市、橿原市では30代、40代の新人が当選。落選後に前市長が在任中の不正で逮捕された生駒市や、現職逮捕で出直し選挙を余儀なくされた高取町の例は論外だが、再選出馬が濃厚とみられた現職が引退、新人同士による激戦に突入する市町村も目立つようになっている。
表向きには、取り組んできた課題が一段落したなどと説明されるが、実際は有権者が現職を敬遠する風潮を見越して再出馬を見送るのか、それとも従来の政治手法に行き詰まり、意欲を失ってしまうのか。政権を突然投げ出す首相がいる時代。最後まで任期を務めて後任に託す市長村長は責任感と良識があるが、厳しい地方行政の実態もかいま見える。
県がまとめた、県内市町村の平成19年度普通会計決算見込みによると、地方分権に伴う役割の増大もあって決算規模が膨らむ中、実質収支が赤字となった市町村が過去最高タイの7団体を記録。全国の赤字団体が23あるうち約3割を占め、県内市町村の財政がひときわ厳しさを増している。
もちろん新人、若手が市長村長になったからといって即、現状が改善されるわけではない。市長の資質を問い議会が不信任案を決議、破綻(はたん)した前奈良市政、医療行政や開発問題を巡り迷走を続ける生駒市政など。むしろ困難な時期だからこそ経験豊富な首長の頑張りが期待される場面もある。いずれにしても議会との連携、住民との対話を基礎に、市長村長には強いリーダーシップと創意が求められている。
だからこそ選挙の活性化が望まれる。私利私欲に基づく権力闘争はいうまでもなく、地域を二分するような激戦もいたずらにあおるべきでないが、候補者づくりでは政党も積極的な役割を果たす必要がある。衆院の解散、総選挙をにらみ、とってつけたような「地方重視」では国政も円滑に動かなくなる。来年は統一地方選挙の“裏年”に当たり、県内12市町村長が任期満了を迎える。市町村合併の推進も県内では「未解決の課題」だから、中山間地域も含めた全域で活発な政策論議が展開されれば良い。
併せて、無投票当選した市長村長はもとより、選挙戦を勝ち抜いた首長も、今一度、住民との対話に目と耳を傾ける姿勢を持つべき。要望を聞き、決定事項を報告するだけではなく、具体的な施策を明示して住民と議論する市町村政こそが有権者の「信」を得る。