法定速度引き下げ 当たり前が第一歩 - 論説委員 増山 和樹
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見通しの悪い住宅地の道路をかなりのスピードで走る車に「こんな所をよくそのスピードで」と思ったことはないだろうか。歩行者や自転車が飛び出したらブレーキはとても間に合わない。
警察庁は中央線や複数車線がない一般道の法定速度を30キロに引き下げる方針を決め、道路交通法施行令の改正案を取りまとめた。市街地や通学路を想定しており、中央線などがある場合は従来通り60キロとする。
一般道の法定速度は、車種にかかわらず60キロで統一されてきた。狭い道路の60キロは運転者にとっても相当なスピード感だ。警察庁はこれまでも「ゾーン30」など区間を定めて最高速度を30キロに規制する取り組みを進めてきたが、基準速度の見直しは、交通事故抑止の観点から画期的といえるだろう。
空走距離と制動距離。運転免許の教習所で習うことだが、危険を感じてからブレーキが利き始めるまでの空走距離は車の速度に比例、ブレーキが利き始めてから停止するまでの制動距離は速度の2乗に比例する。速度が2倍になれば制動距離は4倍となる計算だ。運転者の視野は速度が上がるほど狭くなる。
警察庁の資料では、車と衝突した歩行者の致死率は車の時速が30キロの場合は10%だが、50キロでは80%以上に跳ね上がる。歩行者を守る車の安全装備は進化しているものの、歩行者が亡くなる重大事故は県内でも後を絶たない。
法定速度を30キロと定めた場合、課題となるのは運転者への周知と意識付けだ。シートベルトの義務化が参考になるのではないか。運転者に着用が義務付けられた当時、着用の習慣のない運転者も多かったが、地道な広報や取り締まりにより、今では100%に近い。助手席の着用率はやや低いがほぼ同水準だ。
運転者の意識はどうだろう。当初は違反点数が付くことを警戒しての着用が相当数だったと思われる。今では自分の命を守るための着用に意識が変化しており、シートベルトを着用しないと落ち着かない。
法定速度の引き下げも、速度超過がもたらす結果の重大性を運転者が認識するのが第一歩だろう。低速での走行は歩行者はもちろん、加害者とならないよう運転者自身も守る。改正後も標識が設置されるわけではないため、運転者の意識付けがなおさら重要だ。
中央線もなく道幅の狭い道路でスピードを上げない。「当たり前」を見つめ直すことから始めたい。