富雄丸山古墳の調査 積極的情報公開を - 編集委員 高瀬 法義
奈良市丸山1丁目の国内最大の円墳、富雄丸山古墳(直径109メートル、4世紀後半)で、これまでに出土類例のない形状や文様をもった青銅製の「盾形銅鏡」と、鉄剣としては国内最大となる「蛇行(だこう)剣」が見つかった。調査を行った奈良市教育委員会埋蔵文化財調査センターと、県立橿原考古学研究所によると、「古墳時代の金属工芸の最高傑作」であり、「国宝級」の発見という。
社会的な反響も大きく、1月28、29の両日に開かれた現地見学会には、各地から歴史・考古学ファンが集まり長蛇の列を作った。残念ながら保存処理中の盾形銅鏡と蛇行剣は見ることができなかったが、市教委によると2日間で計4503人が訪れた。
また、市が動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿した動画も人気を集める。盾形銅鏡の文様が確認された瞬間を写した貴重な動画だが、初日だけで2万回以上再生され、9日時点で5万2000回に達している。さらに奈良文化財研究所の全国遺跡報告総覧に公開された現地見学会資料のダウンロード数も記録的な伸びを見せ、6300件を突破。同研究所の担当者もSNSで、「8年間運営しているが、こんな化け物資料初めて見た」と驚く。
富雄丸山古墳は明治時代末出土と伝わる碧玉製合子や石製品などが国重要文化財に指定。同古墳から出土したとされる邪馬台国の女王・卑弥呼の鏡説がある三角縁神獣鏡も3枚伝わり、天理大学付属天理参考館が所蔵している。古墳は市有地化され、保存されていたが史跡には未指定。古墳を示す案内板もなく、一般にはあまり知られていなかった。
市は市西部の文化遺産として、地域活性化や観光、教育などに生かそうと本格的な発掘調査を開始。調査に当たっては市民向けの発掘体験会を開き、参加者が貴重な銅鏡の破片を見つけるなどの成果もあった。さらに、同古墳に限ったことではないが、市教委埋蔵文化財調査センターではSNSなどで積極的に発掘成果情報を発信。今回の反響は発掘成果の重要性だけでなく、こうした積み重ねの結果といえるのではないか。
高松塚古墳(明日香村)壁画の劣化が判明したとき、一部の専門家だけにしか公開して来なかった文化庁の閉鎖性が非難された。さまざまな形で情報を発信し専門家だけでなく市民も交えた富雄丸山古墳の調査は、今後の文化財保存活用に向けた一つの指針となるだろう。今後も積極的な情報公開を。