自転車のルールとマナー 文化にするために - 編集委員 松岡 智
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負の影響の多い新型コロナウイルス禍の中で、見直された存在の一つが自転車だ。屋外で密が避けられる上、環境に優しく、心身の健康にも効果的な乗り物として、これまであまり利用していなかった層への広がりも見られ、売り上げは堅調に推移している。
人気拡大の一方、交通ルールの順守、利用マナー実践の部分では懸念もある。通行場所や一時停止、夜間のライト点灯、歩行者への配慮など、県内利用者にも基本的知識、行為の欠如が散見される。
一例がある。2020年4月、県自転車条例が施行された。条例では自転車所有者らの自転車損害賠償責任保険などへの加入義務も定める。それから2年、罰則規定がないこともあって加入率は芳しくない。県の令和3(2021)年度県民アンケートの結果によれば、保険加入率は自転車利用者の6割程度にとどまる。他の保険やクレジットカードの特約、付帯などで自転車事故の賠償が盛り込まれている場合もあるので、数ポイント上りはするだろうが。
利用者が増加し、楽に速度が出やすくなるなど性能が向上すれば、重大事故発生の可能性は高まる。自らが人身、物損事故の加害者にならないとは言い切れない。
1970~80年代にモーターサイクル人気が高まった時、事故の増加もあって任意保険への加入の必要性が各方面から説かれた。自転車事故でも高額な賠償額の事例が注目されている。
レジャーやスポーツを心から楽しむにはルールを自覚して守り、周囲への配慮も怠らないことが前提となる。自他双方の安全安心が一定担保されてこそ気兼ねなく好きなことに没入できる。
県内だけでも約75キロにおよぶ京奈和自転車道の開通やサイクリストに優しいステーション・宿・休憩所・自動車併用時の駐車場の整備、サイクルトレインの運行開始など、県内での自転車利用の環境も整ってきている。ただブームではしばしば、ルールやマナーが置き去りにされる。無論まずは利用者自身が守り、身に付けるものだ。だが販売店も含め自転車に何らかでかかわるすべての人、組織が、手ごろな額の自転車保険の存在のほか、県自転車条例や安全利用五則の内容、順守の必要性などを単発でなく継続的に多様な方法で伝え、拡張していくべきだろう。
同条例では65歳以上の高齢者のヘルメット着用も努力義務とされる。ルールとマナーが年齢を問わず広く浸透してこそ自転車が真に文化として定着する道も見える。