金曜時評

引き締めと展望を - 論説委員 松井 重宏

 昨年1月に県内在住の男性が全国初の国内感染者として報告されてから1年半。新型コロナウイルス対策は、これまでの経験とワクチン接種の進展状況を踏まえ、改めて「感染拡大の防止」と「社会・経済活動の正常化」のバランスを調整し直す、新たな局面を迎えている。

 今月10日に開いた全国知事会は国への緊急提言で、今後の感染拡大防止対策について「引き続き国民に危機感を伝え行動変容を促す強いメッセージを発出」するよう要請。その上で「段階的な社会経済活動の前進に向けた『出口』への中期的な対応方針を早急に示すこと」を明記した。

 県も9日に第5期の県緊急対処措置を発表。今月11日までとしていた同措置の期間を8月22日まで延長する方針を決め、感染拡大の第5波に備え「危機感を持って事態に対処する」姿勢を強調、県民に協力を呼び掛けた。

 ただ同対処措置は感染防止に絞った取り組みのため、経済支援に関しては、感染防止対策を実施する飲食店、宿泊施設を対象とした認証制度の現状報告などにとどまった。社会・経済活動の正常化を図る施策は別途、本年度予算の中で措置されているが、タイミングを逃さず、事業を適切に進めていく姿勢、実施計画を早期に明示することも求めたい。

 感染拡大の第4波を引き起こしたアルファ株より感染力が強いとされるデルタ株への警戒、また対策疲れによる気の緩みも懸念される中、引き締めだけでなく、将来展望を示すことが、県民一人ひとりの取り組み意欲を高める重要な手段になる。

 コロナ禍にあえぐ県内の宿泊施設や旅行業の団体は今月13日、県の宿泊促進事業「いまなら。キャンペーン」の早期実施を要望。この中で県旅館・ホテル生活衛生同業組合は、アンケートに答えた組合員のうち約6割が今後、半年以内に経営危機に陥ると回答したと報告。東京五輪や夏の帰省、旅行シーズンを控え、県境を越えた人の往来には慎重さが必要だが、感染状況に応じて対象を限定するなど工夫、施策の実施時期も柔軟に対応するよう県に訴えた。

 65歳以上の高齢者に対する県内のワクチン接種率は13日現在、2回目接種済みが51・9%と半数を超えた。その効果を分析し次の施策への切り替えを、いつ、どう判断するのか。県には、国や市町村と連携、中長期の展望と併せて足元の「出口戦略」を緩やかに、そして着実に進めてほしい。

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